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第6話「モリの村」

3日目の夕方


ちょうど日が暮れてきた頃

僕たちは無事渓谷を抜けた


「ゼン、モネ、

 モリの村が

 見えてきました」


「おぉ、

 あれがモリの村か!」


渓谷を抜けた先の

森の深い場所に

モリの村はあった


自然が豊かな環境は

どこかハツノ村を思い出させる


「ノンは、

 モリの村に来た事が

 あるのか?」


「いえ、

 以前立ち寄った町で

 遺跡に向かう道について

 町の人に尋ねた際」


「このモリの村を通って

 向かうルートもあると

 教えて頂いてたんです」



「へぇ、

 確かにこっちのルートだと

 渓谷を抜けたり、

 深い森を通らないと

 行けないわけだから」


「南の草原方面から

 向かうルートの方が

 近道って訳か」


「はい。

 それにしても、

 自然に囲まれた

 とても良い村ですね」



「ああ、

 ちょっと俺の生まれ育った

 村に雰囲気が似てるし、

 親近感が湧いてくるよ」


ゼンも

僕と同じことを思ったらしい


「日が暮れてきてるし、

 まずは泊めてくれる

 家がないか尋ねてみよう」


僕たちは

モリの村に着くと

入口近くの家に向かい

泊めてくれる場所はないか尋ねた



「おや、旅人さんかい。

 こんな森深くの村に

 立ち寄るなんて

 珍しいこともあるもんだ」


「ウチは狭いから、

 トメさんに聞いてみたら

 どうだい?」


「トメさんっていうのは、

 この村の相談役というか

 まぁ、村長みたいなもんさ」


「あそこの、

 村の中央にある家が

 トメさん家だよ」


「わかりました。

 ありがとうございます」


「いえいえ。

 何もない所だけどね、

 みんな良い人ばかりだから

 ゆっくりしておいき」


「私らも

 旅人さんと話す機会なんて

 滅多にあるもんじゃないし

 あとでトメさん家に

 寄らせてもらうかね」


僕たちは

教えてもらった

トメさんという人の

家に向かった


「あらま、

 旅人さんかい!?」


「珍しいことも

 あるもんだねぇ」


先程のおばあさんと

同じ反応を一通り見せたあと


「そういうことなら、

 うちの部屋を

 使っておくれ」


「あぁ、お代はいらないよ。

 その代わり、後で旅の話を

 聞かせてくれるかい」


「ありがとうございます。

 それは構いませんが、

 一応厄介になる身です」


「何か手伝って

 欲しいことがあれば

 言ってください。」


ゼンは控えめに言うが

どうやらすでに

協力姿勢モードに

なったみたいだ


それから僕たちは

トメさんの家の

奥にある部屋に向かい

ひと休みすることにした


ゼンはトメさんに

2部屋借りられるか聞いた


「なんだい、

 わたしゃてっきり

 2人で愛の逃避行の旅を

 しているんだと思ってたよ」


トメさんは

からかうような口調で

そう言いながら

僕に視線を向けて

ウィンクをする


「あぁ、別に構わないよ。

 空いてる部屋なら

 いくらでも使っておくれ」


トメさんは

笑いながら快諾してくれたが


「お気遣い

 ありがとうございます。

 ですが...」


ノンが

一晩休むだけだから

一緒の部屋で構いません

そう答えると


「あら、そうかい?

 なかなか出来た子じゃないか。

 あんた良いお嫁さんになるよ」



トメさんは

ガッハッハと

大きな笑い声を上げながら

台所の方に向かっていった


予想だにしない言葉が

続いたからなのか

ノンは俯きながら

少しの間赤面していた


「へぇ、

 なかなか良い部屋だなぁ」


部屋に入ると

ゼンは荷物を下ろし

置いてある椅子に

腰掛けながらそう呟く


僕も

適当な場所に移動し

丸まった姿に変化してから

ひと休みすることにした


「ん?

 どうかしたか?」


ゼンは

ノンが部屋の入り口で

突っ立ったまま動かないので

声を掛けた


「い、いえ。

 そうですね、

 すごく良い部屋です」


ノンは

トメさんの先程の言葉で

かなり動揺したのか

目が泳ぎながらもそう答える


「ひとまず、

 今日はゆっくりして、

 これからのことは

 明日考えることにしよう」


察しが良いのか悪いのか

僕はゼンに向かって

そういう意味を込めて

視線を送った


その後

部屋でひと休みしていると

トメさんが声を掛けてきた


「起きてるかい?

 これから夕食なんだけど

 一緒に食べるだろう?」


「ぜひ、頂きます」


ゼンが

代表して答える


「じゃあ、支度するから、

 もう少し休んでておくれ」


「ありがとうございます。

 もし薪を焼べたりする必要が

 あるなら手伝いますよ」



「あら、そうかい?

 疲れてるところ悪い気もするけど

 せっかくだし

 お願いできるかい?」


「えぇ、

 任せてください!」


ゼンは

よしきた!と言わんばかりに

気合を入れて薪を焼べに向かう


「あ、あのぉ...」


ノンは

トメさんのところに

向かって行き

何やら話をしている


それから

1時間ほどして

夕食の用意ができたと

トメさんが呼びにきた


「おー!美味そう!」


ゼンは

テーブルに並んだ料理を見て

テンションを上げながら

席に座る


「なんて

 気持ちのいい子なんだ。

 たくさんあるから、

 どんどん食べておくれよ」


僕とゼンとノン

そしてトメさんと、

トメさんの旦那さん


僕たちは食卓を囲い

しばらく食事を楽しんだ


「ん?

 このスープは...」


ゼンは

口にしたスープに反応する


「おや?

 気付いたかい?

 それはノンちゃんが

 作ってくれたスープさ」


どうやら

ノンはトメさんの料理の

手伝いをしていたみたいだ


「やっぱりかぁ!

 この味の深みと

 鼻を抜ける爽やかな香り」


「まさか、

 1日に2度も

 口にできるなんて!」


ゼンは

スープを飲み干すと

お代わりを要求する


ノンは

赤面しながら器を受け取り

スープを注ぐ


「あらま、青春だねぇ」


トメさんは

茶化しながらも

2人のやりとりを優しく見守る


しばらくの間

そんな微笑ましい

やり取りが続き


「トメさん、

 お邪魔しますよ」 



村の入り口で会った

おばあさんと


「トメさん、

 私もいいかい?」


「あ、

 本当に旅人さんがいるー」


その他大勢の村人も

トメさんの家に

押し寄せてきた


「なんだい、揃いも揃って」


「だって、

 こんな機会滅多に

 ないじゃない」


「トメさんだけ

 ズルいよ!」


ゼンとノンは

村の人々と

挨拶を交わしながら


旅の話で

花を咲かせていた


今夜はどうやら

長い夜となりそうだ


僕は

騒がしくなってきた

状況を見守りながら


ノンの作ったスープを

口にした



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