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第4話「モネ」

3日目の朝


ノンの同行者となった

僕とゼンは


無事に森を西に抜け

モリの村へ向けて出発した


ノンの話によると

モリの村は渓谷を

越えた先にあるらしい


順調に進めば

今日の夜までには

モリの村に着く

ということなので


今日1日は

歩き通しになるようだ


これまでの旅でも

訪れた町や村の人たちと

交流を持つことはあったし


極たまにだが

他の旅人とすれ違った際に

その場で話をすることもあった


だけど

一緒に旅を共にする

仲間が増えたのは初めてだ


ゼンもノンも

お互いに気を使う性格なのか

言葉を交わす時間は少ない


それでも

今までの旅よりは随分と

明るい旅になった印象はある


突然な出会いではあったが

新しい出来事というのは

いつも突然に起こるもの

なのかもしれない


そして自らの意志で

新しい出来事に

立ち向かうことで


共通の目的を持った仲間と

巡り合えるものなのだろう


ノンの同行者になったことが

ゼンや僕にとって良い方向に進む

きっかけとなるのか


それとも悪い方向に進む

きっかけとなるのか


それは

この先を進んでみないと

わからないが


きっと

良い方向に進むかどうかは


僕たちの行動次第で

いくらでも

結果を変えられるもの


だと思って行動した方が

実りのある旅になる気もする


そんな風に

考えている横で


ゼンは、

ノンが作った朝食のスープが

よほど気に入ったのか


「それにしても、

 今日の朝食のスープは

 本当に美味しかったなぁ」


そう一言呟く


「ふふ。

 ハーブやスパイスを

 細かく潰してから

 スープに加えると

 香りが引き立つんです」


「なるほどな〜

 美味しく調理するには、

 それだけの手間が必要

 ってことか」


確かに

ゼンの料理は

ただ材料を放り込んで

煮込むだけのことが多い


「よければ

 モリの村に着いた時にでも

 作り方を教えますよ」


「お!それは助かるよ。

 今後の旅がより

 楽しくなるかもしれない」


それには僕も同意する


「ノンは、

 料理が得意なんだな」


「得意という

 程ではありませんが、

 料理を作ることは

 好きかもしれません」


しばらく料理の話をしながら

渓谷に向かって歩いていると


「それにしても

 マナ族の方は休んでる時と

 活動している時で

 姿を変えられるんですね」


ノンは、

僕に向かって興味津々

といった顔を見せる


「ああ、

 マナ族が全員同じように

 姿を変えられるかは

 わからないけど」


「モネは、

 寝ている時や

 身を守るときは

 丸まった姿になって」


「荷物を運んだり長い距離を

 移動するときは、

 今のような

 4足歩行の姿になるんだ」


「丸まった姿でも

 飛んで移動することは

 できるけど」


「風が強いと

 移動方向のコントロールが

 きかなかったり」



「いざという時の

 瞬発力にも欠けるらしく」


「旅の道中では、

 小回りがきいて

 動きやすい姿で

 活動するみたいなんだ」


「まぁ、

 言葉を交わせるわけではないから

 本人からしたら別の理由も

 あるかもしれないけど」



「そうなんですね。

 モネとはずっと一緒に

 旅をしてるのですか?」



「そうだね。

 俺が生まれた時からずっと

 一緒にいるらしいけど」


「モネがいつから

 村に住んでいるのかは

 誰も知らないみたいなんだ」



「そうですか。

 マナ族...」


ノンは

僕を見ながら

少し考える素振りを見せたが


「お!

 どうやら目的の渓谷が

 見えてきたみたいだ」


ゼンの言葉ですぐに

明るい表情に戻った


どうやら今は

渓谷を越えることに集中しようと

気持ちを切り替えたらしい



ノンは

僕のことについて

何か知っているのか


それとも

マナ族のことについて

思うところがあるのか


それはわからない


そもそも僕自身も

自分がどこで生まれ


どういう経緯で、

ゼンと一緒に過ごすことに

なったのかがわからない



もちろん

自分の生まれについて

知りたいと思う気持ちはある


でもいつか

自分が何者なのか

本当の意味で知った時


もしかしたら

世界に仇なす存在として

心の変化が

生まれてしまう可能性もある


だけど

これからの旅で

正しいと思える行動を

取り続けていくことで


世界に仇なす存在として

ではなく

世界に必要とされる存在

として


正しい方向へ心の変化を

向けさせるための

糧となるかもしれない


だから

今はただゼンと一緒に

この世界を冒険し


色々な世界を知りたい

そう思っている


「ねぇ、モネ」


ノンが

僕に話しかける


「モネは、

 戦ったりもするんですか?」


僕は

四足歩行姿のまま

手の爪を伸ばして

ノンに見せる


「すごい!

 その鋭い爪で引っ掻いて

 戦うんですね」


僕は首を横に振って

爪の先を頭の方に持っていき

2度こついて見せる


「えっと...

 頭を使って

 戦うってことですか?」


僕は少し考えてから

前方に走り出す


そして

その勢いのまま

丸まった姿に変化し


先頭を歩く

ゼンの背中目掛けて

タックルを仕掛ける


「うわぁ!!」


「えっ!?」


ゼンは

前方に吹っ飛びながら


ノンは

吹っ飛ぶゼンを見ながら

同時に驚きの声を上げる


「だ、大丈夫ですか!?」


ノンは

うつ伏せで倒れている

ゼンに向かって声をかける


「うぅ...何すんだ!」


ゼンは

倒れた姿勢から飛び上がると

僕目掛けて飛びついてきた


僕はすぐさま

四足歩行姿に変化し

ゼンの飛びつきを

なんなく避ける


「ぐへ...」


ゼンが

また仰向けで

倒れたのを確認すると 


僕は

ノンに顔を向けて

どうだ

と誇らしげな表情を見せる


「なるほど!

 いわゆる頭脳プレー

 ってやつですね!」


僕は

やっとわかってくれた

という意味を込めて

尻尾を振った


「モネって、

 言葉は話さないけど、

 私たちの言葉は

 理解しているんですね」


「あぁ、たぶん

 俺とずっと一緒に

 いたからだろうね」  



「言葉のやり取りはできなくても

 大抵の意思疎通はできるし、

 それにかなりの頭脳派だ」 


ゼンは

服についた草を払いながら

続けて答える


「積極的に

 戦ったりはしないけど」


「じっくり状況を

 確かめながら

 ここぞ!という時に、

 助けてくれるんだ」


ゼンは

昨日のゴブリン戦を例にして

僕の戦い方をノンに話し


ノンは

それを聞いて僕に

感心したような表情を向ける


「さぁ、

 渓谷の入り口は

 もう目前だ」


僕とゼンとノンは

気持ちを切り替え


それぞれの表情で

渓谷の先を見つめていた



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