3日目の朝
ノンの同行者となった
僕とゼンは
無事に森を西に抜け
モリの村へ向けて出発した
ノンの話によると
モリの村は渓谷を
越えた先にあるらしい
順調に進めば
今日の夜までには
モリの村に着く
ということなので
今日1日は
歩き通しになるようだ
これまでの旅でも
訪れた町や村の人たちと
交流を持つことはあったし
極たまにだが
他の旅人とすれ違った際に
その場で話をすることもあった
だけど
一緒に旅を共にする
仲間が増えたのは初めてだ
ゼンもノンも
お互いに気を使う性格なのか
言葉を交わす時間は少ない
それでも
今までの旅よりは随分と
明るい旅になった印象はある
突然な出会いではあったが
新しい出来事というのは
いつも突然に起こるもの
なのかもしれない
そして自らの意志で
新しい出来事に
立ち向かうことで
共通の目的を持った仲間と
巡り合えるものなのだろう
ノンの同行者になったことが
ゼンや僕にとって良い方向に進む
きっかけとなるのか
それとも悪い方向に進む
きっかけとなるのか
それは
この先を進んでみないと
わからないが
きっと
良い方向に進むかどうかは
僕たちの行動次第で
いくらでも
結果を変えられるもの
だと思って行動した方が
実りのある旅になる気もする
そんな風に
考えている横で
ゼンは、
ノンが作った朝食のスープが
よほど気に入ったのか
「それにしても、
今日の朝食のスープは
本当に美味しかったなぁ」
そう一言呟く
「ふふ。
ハーブやスパイスを
細かく潰してから
スープに加えると
香りが引き立つんです」
「なるほどな〜
美味しく調理するには、
それだけの手間が必要
ってことか」
確かに
ゼンの料理は
ただ材料を放り込んで
煮込むだけのことが多い
「よければ
モリの村に着いた時にでも
作り方を教えますよ」
「お!それは助かるよ。
今後の旅がより
楽しくなるかもしれない」
それには僕も同意する
「ノンは、
料理が得意なんだな」
「得意という
程ではありませんが、
料理を作ることは
好きかもしれません」
しばらく料理の話をしながら
渓谷に向かって歩いていると
「それにしても
マナ族の方は休んでる時と
活動している時で
姿を変えられるんですね」
ノンは、
僕に向かって興味津々
といった顔を見せる
「ああ、
マナ族が全員同じように
姿を変えられるかは
わからないけど」
「モネは、
寝ている時や
身を守るときは
丸まった姿になって」
「荷物を運んだり長い距離を
移動するときは、
今のような
4足歩行の姿になるんだ」
「丸まった姿でも
飛んで移動することは
できるけど」
「風が強いと
移動方向のコントロールが
きかなかったり」
「いざという時の
瞬発力にも欠けるらしく」
「旅の道中では、
小回りがきいて
動きやすい姿で
活動するみたいなんだ」
「まぁ、
言葉を交わせるわけではないから
本人からしたら別の理由も
あるかもしれないけど」
「そうなんですね。
モネとはずっと一緒に
旅をしてるのですか?」
「そうだね。
俺が生まれた時からずっと
一緒にいるらしいけど」
「モネがいつから
村に住んでいるのかは
誰も知らないみたいなんだ」
「そうですか。
マナ族...」
ノンは
僕を見ながら
少し考える素振りを見せたが
「お!
どうやら目的の渓谷が
見えてきたみたいだ」
ゼンの言葉ですぐに
明るい表情に戻った
どうやら今は
渓谷を越えることに集中しようと
気持ちを切り替えたらしい
ノンは
僕のことについて
何か知っているのか
それとも
マナ族のことについて
思うところがあるのか
それはわからない
そもそも僕自身も
自分がどこで生まれ
どういう経緯で、
ゼンと一緒に過ごすことに
なったのかがわからない
もちろん
自分の生まれについて
知りたいと思う気持ちはある
でもいつか
自分が何者なのか
本当の意味で知った時
もしかしたら
世界に仇なす存在として
心の変化が
生まれてしまう可能性もある
だけど
これからの旅で
正しいと思える行動を
取り続けていくことで
世界に仇なす存在として
ではなく
世界に必要とされる存在
として
正しい方向へ心の変化を
向けさせるための
糧となるかもしれない
だから
今はただゼンと一緒に
この世界を冒険し
色々な世界を知りたい
そう思っている
「ねぇ、モネ」
ノンが
僕に話しかける
「モネは、
戦ったりもするんですか?」
僕は
四足歩行姿のまま
手の爪を伸ばして
ノンに見せる
「すごい!
その鋭い爪で引っ掻いて
戦うんですね」
僕は首を横に振って
爪の先を頭の方に持っていき
2度こついて見せる
「えっと...
頭を使って
戦うってことですか?」
僕は少し考えてから
前方に走り出す
そして
その勢いのまま
丸まった姿に変化し
先頭を歩く
ゼンの背中目掛けて
タックルを仕掛ける
「うわぁ!!」
「えっ!?」
ゼンは
前方に吹っ飛びながら
ノンは
吹っ飛ぶゼンを見ながら
同時に驚きの声を上げる
「だ、大丈夫ですか!?」
ノンは
うつ伏せで倒れている
ゼンに向かって声をかける
「うぅ...何すんだ!」
ゼンは
倒れた姿勢から飛び上がると
僕目掛けて飛びついてきた
僕はすぐさま
四足歩行姿に変化し
ゼンの飛びつきを
なんなく避ける
「ぐへ...」
ゼンが
また仰向けで
倒れたのを確認すると
僕は
ノンに顔を向けて
どうだ
と誇らしげな表情を見せる
「なるほど!
いわゆる頭脳プレー
ってやつですね!」
僕は
やっとわかってくれた
という意味を込めて
尻尾を振った
「モネって、
言葉は話さないけど、
私たちの言葉は
理解しているんですね」
「あぁ、たぶん
俺とずっと一緒に
いたからだろうね」
「言葉のやり取りはできなくても
大抵の意思疎通はできるし、
それにかなりの頭脳派だ」
ゼンは
服についた草を払いながら
続けて答える
「積極的に
戦ったりはしないけど」
「じっくり状況を
確かめながら
ここぞ!という時に、
助けてくれるんだ」
ゼンは
昨日のゴブリン戦を例にして
僕の戦い方をノンに話し
ノンは
それを聞いて僕に
感心したような表情を向ける
「さぁ、
渓谷の入り口は
もう目前だ」
僕とゼンとノンは
気持ちを切り替え
それぞれの表情で
渓谷の先を見つめていた