2日目の朝
僕とゼンは
ハツノ村に向けて
歩きはじめた
せっかくならと
これまで通ってきた道とは
違う道を通って帰ろう
という話になり
僕らは野宿した場所から
遠くの方に見えていた
森を通ることにした
地図は持っていない
だけど
足跡などを頼りに進めば
人が住む場所に辿りつくはずだ
これがゼンが進むべき道を
選ぶ判断基準なのだ
しばらく歩くと
目の前に森の入り口が見えてきた
もちろん
ちゃんとした入り口
なんてものはあるはずがない
だが少し離れた場所に
草が踏み固められた跡が
森の奥へと続いている場所を見つけた
どうやら目の前にある森は
人の往来がある森らしい
「よし、行こう」
ゼンは
その道に視線を向けながら
僕に向かって進む意思を伝えた
とても
整備された道とは言えないが
それでも歩みを進めるのに
十分な道ではあるようだ
遠くから川の流れる音や
森の動物達の気配を感じる
どうやら
危険な森ではなさそうだ
少し安心した気持ちになり
森の匂いを楽しめるくらいには
心に余裕が生まれはじめた時
遠くの方で何かが
慌ただしく動いている気配を感じた
「複数いるみたいだ」
ゼンは一言告げると
気配がする方に向かって
足音を立てないように歩き始めた
「ゴブリンだ、3体はいる」
ゼンは動く物体の
正体を確かめると
ゴブリンが向かっている
方向の先に視線を移す
「あれは...
人が襲われている!」
そう呟くとゼンは
近くにあった木の枝を手に走り始めた
ゴブリンのターゲットを
自分に向けさせるため
先頭を走るゴブリンに向かって
木の枝を投げた
直撃はしなかったが
ゴブリン3体が立ち止まり
ゼンがいる方向に視線を向ける
「よし、
とりあえず注意をこっちに
向けさせることはできた」
「だが、
ゴブリン3体を同時に相手にするのは
さすがにキツイか...」
ゼンは
どう対処すべきか考えながら
ゴブリン達を誘導するように
襲われてた人が走って行った方向とは
逆方向に走り始めた
狙い通り
ゴブリン3体は雄叫びをあげながら
ゼンに向かって走り出す
ゼンは
ゴブリン達から離れすぎないように
走る速度を調整しながら
周辺を見渡して
武器になりそうなものを探している
「大きめの石1個に、木の棒1本」
「今日の朝飯で使わなかった
キノコが3個か...」
ゼンは
何やら思案をしながら
使えそうなアイテムを
装備し始めた
大きめの石を、左手に
キノコ3個を、右手に
そして
木の棒は背中に背負った
「さぁこい!
一か八かだ!」
ゴブリン3体が
ゼンに向かっていく
「まずは、お前だ!」
ゼンは
振り向くと同時に
左後ろにいた
ゴブリンの顔目掛けて
キノコを投げた
キノコを投げられた
ゴブリン達は驚いて足を止め
投げられたものに
視線を向ける
その隙をつくように
先頭を走っていた
ゴブリンの顔に向かって
石を投げつけた
「ぎゃっ」
石をぶつけられ
先頭のゴブリンが
怯んでいる隙に
背中に背負っていた
木の棒を手に取り
右側後ろにいる
ゴブリンの顎に向かって
下から棒の先端を叩き込む
「ごぶぅっ」
木の棒の先端を
叩き込まれたゴブリンは
そのまま後ろに倒れ込む
どうやら渾身の一撃が
決まったらしい
すかさず
回転で勢いをつけながら
先頭ゴブリンの腹に
木の棒を叩き込む
腹に木の棒を叩き込まれた
先頭のゴブリンは
勢いよく左後ろにいた
ゴブリンに向かって飛んでいく
「よし、2体いけた」
3体一気に...
とはいかなかったが
最後の1体に備え
一度距離を取る
しかし
残りのゴブリンは
おたけびを上げながら
右手をかぎ爪状にして
ゼンの顔目掛けて振り下ろす
なんとか木の棒で
カギ爪攻撃を防いだが
そのまま木の棒を掴まれ
左手の拳が腹を襲う
「うぐっ」
ゼンは苦痛の表情を
浮かべながら後ろへとよろけた
ゴブリンは
すかさず奪った木の棒を
ゼンの頭目掛けて
叩き込もうと振り上げた
...ここだ!
僕は
心の中でそう思いながら
木の棒を振り上げた
ゴブリンの横顔に向かって
鍋を思い切り投げつけた
最後のゴブリンが
横に吹っ飛んで倒れた
「はぁ...はぁ...」
「ありがとう、モネ
...助かったよ」
ゼンは
僕にお礼を言うと
僕が背負っている
道具袋から縄を取り出し
気絶している
ゴブリン3体を
木に縛り付ける
「ふぅ...」
「良いコンビネーションだった!」
ゼンは
僕に笑った顔を見せた後
元の道に戻るように
歩き始めた
僕は
ゼンの後ろ姿を見ながら
心の中で喜んだ
ザク...ザク...ザク...
「あのぅ...」
元の道に戻ってくると
声を掛けられた
どうやら先ほどゴブリンに
襲われていた人のようだ
「よかった!
無事だったんですね!」
「先ほどは、助けて頂き
ありがとうございました」
僕らは
そうお礼を言いながら
頭を下げるその人を見て驚いた
その人は、この場所には
似つかわしくない格好をした
ピンク色の髪をした
女性だった