「何が目的だ?」
イモケンピの低い声が静寂を揺らした。
私はわずかに息を整え、冷静な声で応じた。
「私の目的は、この世界を手に入れることです。」
その言葉に、彼の瞳がわずかに細まり、微かな興味の色が浮かんだ。
「ほう、それは面白い。やっと目的が定まったようだな。」
私は視線を逸らさず、さらに言葉を紡いだ。
「私は……悪魔の子です。」
私の言葉が、空気を一変させた。
「人の寿命を操ることができます。」
イモケンピの目がわずかに細まり、鋭い光が宿る。だがその表情は、驚きと冷静さが奇妙に交錯していた。
「何……?」
低く押し殺された声は、静かな雷鳴のようだった。
「悪魔の子だと……?」
その視線には、ただの驚きではなく、深い探求心が浮かんでいた。
「なるほど。これで全ての説明がつく――お前の血が、私をここに呼び寄せたか。」
彼の口元に浮かんだ微かな笑みには、不気味な冷たさがあった。
イモケンピは数歩近づき、私の顔を覗き込むようにして言葉を続けた。
「それが事実なら、お前はこの世で最も危険で……最も興味深い存在になる。」
その瞳の奥に炎のような感情が揺らめく。私は彼の視線を受け止め、心臓が高鳴るのを感じながらも毅然と答えた。
「あなたに翼をもらった時、私の頭にその能力の使い方が流れてきました。あなたの力が私の悪魔の力を覚醒させたのです。」
イモケンピは興味深そうに眉を上げたが、口を閉じ、私の言葉を待っているようだった。
「トラプトニアンが去れば、人類は地球を守った私を崇拝するでしょう。そして、悪魔である私を神として信仰するようになります。悪魔と神が同義になるということです。」
イモケンピは何も言わず、ただ私を見つめていた。その赤い瞳が、まるで私の心の奥底を覗き込むように揺れている。
「私は気づいたのです。絶望したのはエイリアンの侵略によるものではない、愚かな人類に絶望していたのです。私は人類を浄化し地球をあるべき姿に戻します。そして、この地球の神となります。」
「浄化だと?」
彼の赤い瞳が鋭く光り、私を見据えている。
「そうです。弱いもの虐げる人たち、人類を侵す害悪を浄化します。」
イモケンピは目を細める。
「愚かな振る舞いをすれば、争いを起こす奴らと同じだぞ。」
「命を軽視する下等生物と同じではありません。」
「皆同じようなことを言うものだ。人類の浄化と虐殺は何が違う?」
「害のない純粋な人間だけを残すのです。」私は迷いなく答えた。
「尊い命を残し、害悪は全て滅ぼします。優秀な人間もそうでない人間も。」
「昔、優等人種だけを残すと言って戦争をした奴らがいたな。」
「そんな理不尽な世界を終わりにします。」私は言葉を重ねた。
「契約の時、たくさんの声が聞こえました。口が達者で声の大きいものたちが支配する世界で犠牲になった人達の声です。私が神となり、その理不尽な世界を終わりにします。」
「エゴだな。」イモケンピは、わずかに口元を歪める。
「そう。エゴです。」私は微笑んだ。
「悪魔は人類を戒める存在。あなたが私に教えてくれたエゴで、私はこの星を進化させるのです。」
イモケンピはしばらく私を見つめ、そして静かに頷いた。
「強くなったな。いや、もともと強かったのか。」
「あなたが道を示してくれたからです。」
彼は一瞬笑みを浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「しかし、お前が地球を守ったと誰が気づく?」
「瓢六たちが協力してくれるでしょう。彼らは皆、私に仕えることを約束してくれました。」私は小さく笑う。
「瓢六とは目的が一致しています。私とこのお腹の子が神とし、瓢六は神の代理人となり人類を加護します。レイナは私の目的に気づいていました。それを知ったうえで協力してくれたのです。皆、目的は一緒でした。」
イモケンピは声をあげて笑った。その笑いは、冷酷さや皮肉を超えた、純粋な喜びに近いものだった。