だが、平和の裏側では暗い影が動いていた。一部の強硬派トラプトニアンが密かに計画を進めていたのだ。彼らは、第三浮遊艦の一部を構成する強襲艦を分離・占拠し、その標的を調停の場である日本に定めていた。占拠した艦内では、巨大なエネルギー砲の発射準備が着々と進行していた。
「調停の成立は我々の敗北を意味する!」
強硬派のリーダー、リセノヴァの冷徹な声が艦内に響き渡った。その言葉は鋭く、反抗と決意に満ちていた。周囲を囲む強硬派の部下たちは、その言葉に頷きながら、静かに力を結集させていく。
彼らの目的は明白だった――調停の成功を破壊し、トラプトニアンの力を取り戻すこと。その行動は、地球とトラプトニアンとの未来を揺るがす最後の悪足掻きとなっていた。
皆がその異変に気づいたときには既に遅かった。強襲艦は調停の場である神社の頭上にまで迫り、巨大な影を落としていた。
「平和を装い、我々の力を奪われるわけにはいかない。目を覚ませ、同胞たちよ。我々は、この星を浄化し、正当な支配権を取り戻すのだ。」
リセノヴァの言葉が、強襲艦のスピーカーを通して堂々と宣言される。冷たく響くその声は、上空にいる彼らの威圧感を一層強調していた。
エネルギー砲の標準が調停の場に向けられ、砲口が輝きを増し、青白い光が波打つように収束していく。
「まずい、攻撃する気だ!」
緊迫したレイナの声が響いた。
発射態勢に入った砲台から放たれる光は、数百キロ四方を一瞬で消し去る力を秘めている。
絶望が周囲を包む中、レイナは目を閉じ、大地に手を触れて静かに祈りを捧げた。その姿は、希望の炎を手放さない意志そのものだった。隣では瓢六が深い祈祷を始め、空間には緊張感と神聖さが入り混じるような感覚が漂っていた。
「エネルギー砲、発射準備完了!」
冷徹なトラプトニアンの声が響き渡る。
その瞬間、誰もが全て終わると感じていた。砲口の光は頂点に達し、次の瞬間には調停の場が崩壊する未来が目の前に迫っていた。希望は尽き、絶望だけが支配しているかのように見えた。
だが、私たちは違った。私たちは信じていた。
「希望の光を消そうとする者には、必ず鉄槌が下る」と。
「我々は決して屈しない……そうだろう?」
私たちは静かに呟きながら、遥か空を見上げた。そして、その名を呼んだ。
「イモケンピ!」
その時だった――。
空が割れ、闇の中に燃え上がる光の翼が広がった。空間を覆う漆黒の闇が、突如として鮮烈な輝きに包まれた。光はあまりにも強烈で、その場にいるすべての者が目を奪われ、息を呑んだ。
光は周囲を照らし、空気を震わせながら降り注ぐ。その中心に立つ存在は、かつての悪魔イモケンピだった。
しかし、彼の姿はもはや悪魔ではなかった。漆黒の翼は神々しく輝く光を纏い、その存在には威厳と畏怖、そして救済の象徴としての圧倒的な力が宿っていた。黒い炎のように揺れる翼は、空を裂き、その輝きが周囲を埋め尽くす。
イモケンピは赤い瞳を鋭く輝かせ、響き渡る声で言った。
「見よ、これが調和だ。」
彼の声に呼応するかのように、地球のすべての水が輝き始めた。湖、川、海、そして空気中に浮かぶ無数の水滴までもが輝き、命を宿したかのように空中へと舞い上がる。それらの水は光の流れとなり、発射準備を整えたエネルギー砲を包み込みながら巨大な渦となった。眩い光の渦がエネルギー砲を覆い尽くし、次の瞬間、それは跡形もなく消滅した。
「この力……、地球の意思か?……地球が応えている…」
私たちは呆然とその光景を見守るしかなかった。