窓の外には降り積もる雪が一面を覆い、銀世界が月光に照らされて静かに輝いている。木々はその枝に白い衣を纏い、風に揺れるたびに小さな雪片を舞い上げた。
イモケンピが肉体を手に入れてから、90日が過ぎた頃。王となった彼のもとには、常に忠誠を誓う者たちが集まり、絶え間なく賛美の声が響いている。それでも彼は、夜の静けさに紛れて私のもとを訪れることを忘れなかった。
冷たい空気が肌を刺す中、彼の赤い瞳だけが夜闇に浮かび、凍える冬の景色の中で一際異彩を放っている。
その晩、私は彼を迎えながら静かに言葉を放った。
「王になれましたね。約束どおり翼をください。」
イモケンピはその言葉に応えるように私を見下ろし、赤い瞳を細めながら不敵な笑みを浮かべた。その笑みにはどこか挑発的な色が混じっている。
「いいだろう。約束だ。」
彼はそう呟くと、背中に広がる6枚の漆黒の翼をゆっくりと広げた。それは闇そのもののように揺らめき、見る者を圧倒する不思議な輝きを放っていた。その中の2枚が静かに畳まれると、まるで霧に溶け込むようにして彼の背中から消えていく。
次の瞬間、その翼は黒い炎のように形を変えながら、私の背中にゆっくりと現れ始めた。鋭い痛みが背骨を貫き、身体中を焼くような感覚が私を襲う。思わず息を詰める中で、漆黒の翼が私と完全に一体化していくのを感じた。
翼が完全に現れると、イモケンピは一歩引き、満足げに私を見つめた。そして低く、確信に満ちた声で言った。
「これが私の力だ。」
彼の言葉が耳元に響く。その瞬間、私の意識は広がり、地上を超え、空を舞う感覚が全身を包み込んだ。新たな視界、新たな力。そのすべてが、私の存在を根底から変えるようだった。
「悪魔の翼だ。私の力を多少なりとも引き継いでいるはずだ。」
イモケンピの声が低く響き、その言葉には確信が宿っていた。彼の赤い瞳が、私の背中に新たに生まれた翼を鋭く見つめる。
「望めば人を操ることもできるだろう。その力をどう使うかは、お前次第だ。」
私は背中の翼を軽く広げ、その存在を確かめるように動かしてみた。翼は黒い炎のように揺らめき、まるで私自身の感情に反応するかのようだった。その感覚は不思議で、そして力強かった。
「ありがとう。」
微笑みながらそう言うと、イモケンピは満足げに頷いた。
しかし、私はすぐに彼に向き直り、真剣な眼差しを向けた。
「トラプトニアンの民に伝えてください。『この星を守る』と。そして、『この星を去る』と。」
その言葉に、イモケンピは眉を興味深そうに上げた。
「それが、お前の望みだったな。」
「そうです。」私は静かに頷いた。
「トラプトニアンがこの星の守護者となり、あなたがその守護者を率いる神となるのです。ただ、この水の星だけではありません。この太陽系全体を守り、宇宙に君臨する神となってください。」
言葉に込めた思いが、空間に静かに広がっていく。私はさらに続けた。
「人類は、この宇宙で水がどれだけ貴重で大切なものかを学びました。どうかこの星の水を守ってください。それが、人類とトラプトニアンが共存するための第一歩です。」
イモケンピは私の言葉をじっと聞きながら、赤い瞳を細めた。その瞳の奥では、深い思考が渦巻いているようだった。やがて、彼は低く唸るように言った。
「悪くない話だ。」