静寂が再び訪れる中、イモケンピは杖を静かに下ろし、視線を住民たちに向けた。その眼差しには、ただの悪魔ではない、救世主のような輝きが宿っていた。
そして、イモケンピは杖を高く掲げ、一気に振り下ろした。その動作は大胆でありながら、どこか儀式のような神聖さを帯びていた。彼が唱える呪文の声は低く、奇妙な響きを持ち、広場の空気を震わせる。
言葉の意味は誰にも分からなかったが、その響きは理屈を超え、聞く者の心に直接響き渡った。
「オネガイシマス、オネガイシマス——我が言葉の力で、この水を清める!」
その瞬間、杖から放たれた光が水面を貫き、噴水の水全体が眩い輝きを帯び始めた。広場全体に柔らかな光が広がり、空間を神秘的な色彩で満たしていく。トラプトニアンたちは息を呑み、驚きの声を漏らしながらその光景を見つめていた。
イモケンピはその輝く水を手でそっとすくい上げた。そして、何の躊躇もなくそれを自らの口へ運び、一口飲み込んだ。その仕草には、確固たる自信と意志が込められていた。
飲み干した後、イモケンピは水面を見つめながらゆっくりと顔を上げ、力強く宣言した。
「この水は浄化された。もう危険はない。お前たちの体もすぐに癒され、力を取り戻すだろう。」
その言葉が広場に響くと、一瞬の静寂が訪れた。だが、それはすぐに熱狂的な歓声へと変わった。歓声は波となり、広場を満たしていく。トラプトニアンたちの目には、イモケンピの姿がまるで伝説の英雄のように映っていた。
歓声の中、イモケンピは再び声を張り上げ、堂々と語りかけた。
「見よ! 我々はこの水を恐怖の象徴から生命の源へと変えた!これこそが、私たちの未来を象徴する第一歩だ。今こそ、力を合わせ、新たな世界を築こうではないか!」
さらに歓声が沸き起こった。彼らの視線は、水を浄化し、神々しい輝きを放つイモケンピに釘付けだった。その姿は、「救済者」を超え、神話的な存在として心に刻まれた。
「これが浄化された水だ。」
イモケンピは自信に満ちた声でそう言い、水を杯に注ぎ、トラプトニアンたちに配るよう指示した。
最初に水を口に含んだ者は、驚いた表情を浮かべた。その顔は次第に安らぎに満ち、やがて大きく息を吐き出すと、目に光を取り戻した。
「……素晴らしい! 心が軽くなった……!」
周囲のトラプトニアンたちはその変化を目の当たりにし、一斉に水を求めた。
「貶める能力から解放しただけだが、十分すぎる効果だな。」
彼は心の中でそう呟いたが、口には出さなかった。イモケンピは水を飲んだトラプトニアンから「貶める能力」を解いたのだ。
次々と水を飲む者たちの間で、奇跡は連鎖的に起きた。沈んでいた表情が次第に明るさを取り戻し、身体の重さが消え去るかのように、彼らは喜びの声を上げ始めた。
「気持ちが晴れる……」
「これは本当に浄化された水だ!」
イモケンピはその光景を静かに見守りながら、わずかに口元を歪めた。
「見よ、これが私の力だ。」
広場全体にイモケンピの声が響いた。その言葉は耳で聞く以上に、直接心に刻み込まれるようだった。トラプトニアンたちの目には、彼の存在が神話的な威厳をまとい、科学や論理では到底説明できない「超越した力」の象徴として映っていた。
歓声はますます大きくなり、浄化された水を飲んだトラプトニアンたちの目には感謝と崇敬の光が宿っていく。やがて、一人のトラプトニアンがゆっくりと膝をつき、静かに呟いた。
「偉大なるお方……」
一人が膝をつき、静かに呟いた。それはやがて連鎖し、次々と膝をつく者たちが現れた。
彼らの表情には恐れや疑念の影は微塵もなく、ただ純粋な信仰と絶対的な服従が宿っていた。
その光景を前に、イモケンピは無言で立ち尽くしていた。だが、その赤い瞳の奥には冷たい光が宿り、静かな思索が巡っているようだった。そして、口元には僅かな冷笑が浮かんだ。
「……これが『王』というものか。」