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第78話 後継者の使命

翌日、私は彦作と瓢六を伴い、再び廃村へ向かうことにした。あの扉の鍵穴に、この鍵を試すためだ。車の中で彦作がつぶやく。


「昼間だから大丈夫だと思いたいけど……あの幽霊、昼間もいるんじゃないですかね?」


「幽霊に時間は関係ないかもな。」瓢六があっさりと言う。


廃村に着き、例の建物へと向かう。昼間の廃村は夜とは違った不気味さを漂わせていた。陽光が壊れた瓦礫の隙間を照らし、影が奇妙な形を作り出している。まるで見えない何かがこちらをじっと見ているようだった。


建物の中に入ると、ひんやりとした空気が肌を刺した。まるで建物全体が息を潜め、私たちを見つめているかのようだ。


鉄の扉の前に立つと、昨日のことが鮮明に蘇る。裂けた口で笑う白い影、ひび割れた声、凍りつくような恐怖……。私は一瞬足を止めたが、深呼吸をして鍵を取り出した。


鍵は古びていて、錆びついているかのように見える。それでも扉の鍵穴にぴたりとはまった。


ゆっくりと鍵を回すと、ギィ……ガチャッ!という重い音が響いた。鍵が開いたのがわかる。


私は振り返り、彦作と瓢六を見る。二人は無言で頷いた。


私はゆっくりと扉を押し開けた。その音は重く、まるで永遠に封じられていた秘密が解き放たれる瞬間のようだった。


扉の先には薄暗い部屋が広がっていた。中央には古びたテーブルが一つ置かれ、その上には錆びた天秤と、一通の手紙のようなものが並んでいた。


「天秤……手紙?」


私はつぶやきながら、一歩踏み出した。


部屋の中は異様に静かで、私の足音がやけに大きく響く。懐中電灯の光が揺れるたびに、壁の影が動いているように見えた。


私はテーブルに近づき、そっと手紙を手に取った。


その瞬間、胸の奥で心臓が跳ねるような衝撃を感じた。


手紙に書かれた文字――それは間違いなく、母の字だった。


震える手で手紙を開くと、そこには信じがたい内容が綴られていた。





1枚目の手紙


「40年ほど前のことです。父は、私が病気で長く生きられないことを知り、世界中から悪魔に関する本を集めました。そして、ついに悪魔召喚の原書を手に入れ、悪魔を召喚しました。


父は自分の魂と引き換えに、私に20年の寿命を与える契約を結びました。しかし、その寿命が尽きるとき、父の魂は悪魔に奪われる運命でした。


その後、長い月日の中で私は悪魔と恋に落ちてしまったのです。


そして、私は娘を授かりました。


しかし、父は悪魔との契約通りにはいかず、20年を待たずして命を落としてしまいました。父の魂を奪うことができなくなった悪魔は、不安定な存在となり、次第に衰えていきました。


しかし、私たちとの関わりを通じて、悪魔は本当の愛を知りました。そしてその愛によって、彼自身が浄化されてしまったのです。




その瞬間、手が震えた。母が悪魔と恋に落ちた?私がその娘……?


手紙を握る指先に力がこもる。続きを読むべきか一瞬ためらったものの、覚悟を決めて私は次の手紙を開いた。




2枚目の手紙


「浄化された悪魔は、自分の存在が消える直前、子供を育てるために20年の寿命を私に与えてくれました。


娘は立派に成長しました。しかし、私の寿命はもう間もなく尽きようとしています。


この地に集まった方々へ。


どうか、私の娘に力を貸してください。彼女には、この星を守るための使命があります。私が果たせなかったすべてを、彼女に託します。」




手紙の最後には、こう書かれていた。


「キヨメはこの世界を変えるために生まれてきました。

キヨメは父の力を受け継いでいます。それは『魂の分配』――誰かの寿命を奪い、誰かに寿命を与えることができるものです。

キヨメの力を信じ、キヨメに仕えてください。」


手紙はここで終わっていた。


私は静かに手紙を閉じた。その瞬間、胸の奥から奇妙な感覚が湧き上がる。


「私が……この星を守るための使命を?」


自分の声がまるで他人のもののように聞こえた。


悪魔と人間の子として生まれた――その事実を初めて知った。少し驚きはしたものの、今の環境では非日常が日常だ。


だからなのか、不思議とすんなりと受け入れることができた。


イモケンピが「純粋に信じる者しか悪魔を召喚できない」と言っていたのを思い出した。半信半疑で儀式を行った私になぜ悪魔召喚ができたのがわからないと。信じるどころが私が悪魔だったのだから召喚できたのかもしれない。1つ謎が解けた。

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