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第77話 守りたいと思うもの

残暑が残る初秋の夕暮れ、空は茜色に染まり、風に揺れる草木が夏の名残を語っていた。虫の声が遠くから響き、季節の移り変わりをそっと告げるようだった。その静けさの中で、私はイモケンピとの契約から90日が過ぎたことをふと思い出した。


最初は召喚主と悪魔という関係だったが、今では奇妙な仲間意識が芽生えていた。彼はすっかり人間の生活に溶け込み、家族や友人のように私の日常に寄り添っていた。


夕暮れの静けさの中、イモケンピが不意に問いかけてきた。


「なぜ私と契約した?」


その声は、いつもの軽薄な調子とは違い、どこか真剣さを帯びていた。私は一瞬考え、言葉を選びながら静かに答えた。


「守りたいと思うものができたから。」


イモケンピが鋭い視線を私に向ける。


「何を守りたいんだ?」


その問いは、ただの好奇心ではないように感じられた。私は彼の目を見つめ返しながら、少し間を置いてから微笑んだ。


「今は秘密。でも、契約が完了したら話すわ。」


「そうか。」


それ以上、彼は何も聞かなかった。だが、その短いやりとりの中に、どこか温かい空気が流れていた。


「そうだ、お前にこれをやろう。」


イモケンピがポケットから鍵を取り出し、私に差し出した。


「鍵?」


イモケンピがポケットから取り出した古びた鍵を見て、私は思わず眉をひそめた。


「なんの鍵?」


「知らん。」


イモケンピがぶっきらぼうに答える。


「レプリシアンと融合したときに突然現れた。じーさんが言ってたが、俺は『鍵の悪魔』らしい。」


「鍵の悪魔……」


私は鍵をそっと手に取った。その冷たさが手のひらに伝わる。


「嬉しい。ありがと。」


イモケンピは少し照れたように目をそらした。その姿が妙に可笑しかったが、私の頭にはすぐに廃村の鉄の扉がよぎった。ただ、そのことは口に出さなかった。

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