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第69話 疑惑の種

石船の住人たちが地球の水を日常的に使用し始めた頃、イモケンピはついに動き出した。彼は高官に取り憑いた状態で、生活区域の中を歩きながら次々と新たなトラプトニアンに憑依し、その精神を蝕んでいく。


最初の標的は、静かな生活を送っていた若い技術者だった。イモケンピは彼の耳元で囁く。


「奴らの顔を見ろ。お前をどう見ているか、気づいているか?」


その声は優しくも鋭く、技術者の心に疑念を植え付けた。


「もうお前は役立たずだと、あの会議で言っていたぞ。陰ではお前を"出来損ない"と呼んでいる。」


その言葉は彼の中で反響し、不安と恐怖が増幅される。彼は振り返り、誰もいない暗い通路を見つめた。やがて、手には工具が握られていた。


次に狙われたのは研究部門の指導者だった。イモケンピは幻覚を用い、彼のチームが裏切りを企んでいるように見せた。


「君の研究成果は盗まれている。本当の功績者と称されるのは別の誰かだ。」


研究者は幻覚に怯え、データを守ろうと震える手で端末を抱きしめた。その恐怖は次第に他のメンバーへの疑念へと変わり、彼は不安を口にし始める。


「奴らは僕を監視している…!」


その言葉が他のトラプトニアンにも不安を広げ、小さな火種が社会全体に燃え広がり始めた。



イモケンピは次々と住人たちに憑依し、幻覚や囁きによって疑念を増幅させた。廊下では住民たちがすれ違うたびに視線を交わすが、それは鋭く警戒に満ちたものに変わっていった。



「君の隣人、夜中に何をしていると思う?」


「あの部屋から時々聞こえる音……君のことを探っているんだ。」



住民たちはドアの鍵を増やし、カーテンを閉め切り、夜には怯えながら外を窺うようになった。不信感がピークに達すると、廊下からは怒声や物が壊れる音が響き始めた。



「奴らは組織としては科学的だが、精神的には驚くほど脆いな。」イモケンピは冷笑を浮かべる。


「少しの不和が広がれば、結束など簡単に崩れる。」



「始まったな。」イモケンピは満足げに囁いた。


「奴らが互いを信じられなくなれば、システムは崩壊する。」



住居区域だけでなく、管理区域でもイモケンピの影響は広がっていた。評議会では、メンバー同士の不信感が爆発し、激しい論争が繰り返された。


「黙れ!お前こそこの計画を台無しにしている!」


「私を失脚させるつもりだろう!」


「お前の裏切りがなければ、我々はもっと前に進めていたはずだ!」


調和を重んじていた評議会が、今や罵倒と怒声で満たされている。


「ここが崩れるのは時間の問題だ。」イモケンピは満足げに呟く。


「崩壊のショーを楽しむとしよう。」



イモケンピには「貶める能力」と呼ばれる特化した力がある。言葉を巧みに操り、相手の精神や関係性を破壊し、破滅へと導く能力だ。この力は、恐怖や疑念を植え付け、人々の内面や社会の秩序を崩壊させる手段として使われる。彼の言葉は鋭利な刃のように相手の心を切り裂き、混乱と絶望を広げるのだ。



精神の崩壊:疑念や恐怖を植え付け、不安定にする。

人間関係の破壊:不信感を広げ、孤立させる。

幻覚の利用:偽りの光景を見せ、敵意や恐怖を煽る。

欲望の増幅:権力や愛への執着を煽り、冷静さを奪う。

自滅の誘導:選択肢を歪め、不利な立場に追い込む。

嘘と欺瞞:偽りの約束で裏切りを誘う。

不幸と混乱の拡散:不幸を連鎖的に引き起こ。

知識の操作:誤った情報を与え、誤解を広げる。

道徳心の揺さぶり:善悪を歪め、悪事を正当化させる。

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