その頃、レイナたちは、「神の手」と共闘した経験を持つレプリシアンとの協力関係を築くため、話し合いの場を設けることにした。選ばれた場所は、スーパーマーケットの地下にある薄暗い倉庫だ。
その部屋はかつて商品保管庫として使われていたらしく、錆びた棚や崩れたダンボール箱が点在していた。埃っぽい空気と、かすかな金属の匂いが漂うその場所で、私たちとレプリシアンたちの対話が始まろうとしていた。
彼らの瞳は不自然なほど澄んでおり、彼らが「ただの機械」ではなく「生命体」に近い存在であることを感じさせた。その空間には、人間とレプリシアンの間に漂う微妙な緊張感があった。
中央にはレイナが浮遊艦から持ち帰った知性化AIコアの制御ユニットが置かれている。
ユニットは未だに破壊されていないが、浮遊艦から外されたことでレプリシアンたちの意思制御が失われている。
瓢六が椅子をきしませながら腰掛け、顎に手をやり、興味深そうにレプリシアンたちを見つめている。その視線はただ単に観察するものではなく、どこか探るような鋭さを帯びていた。一方、ドクター・ヴォーンは、少し離れた位置に座り、会話の様子を興味深く見守っている。
「さて、自由意志を手にしたわけだが……」
レイナが低い声で言いながら、レプリシアンのリーダーであるヴェインをじっと見つめた。
「それをどう使うつもりだ?」
その問いに、ヴェインは一瞬戸惑ったように眉を動かしたが、すぐに毅然とした態度で答えた。
「自由を手にした私たちは、オリジナルと同じ生き方を望む。それは、ごく普通の生活だ。家族を持ち、仲間と共に日々を過ごし、平和を求める。それだけだ。」
ヴェイン=ゼトラックス-09 ―― 彼は、元のオリジナルの記憶を引き継いでおり、その記憶を基に自分自身の生き方を模索しているようだった。
「だが……」
瓢六が声を低くして問い返す。
「選択肢の中に、人類との共存はあるのか?」
ヴェインは静かにうなずいた。
「私たちは平和を望む。だが、それが叶うとは限らない。人類とトラプトニアンの双方の一部は、複製人間である私たちを危険視するだろう。それでも、私たちは共に歩む選択肢を模索したい。」
その言葉に、レイナが一歩前に出た。その鋭い灰色の瞳がヴェインを見据える。
「お前たちが自由を望むことには賛同する。だが、自由は対価を伴う。人類と共存するためには、信頼を築かなければならない。その信頼の証として、私たちに協力してくれるか?」
ヴェインは短く頷き、彼の背後に立つ他のレプリシアンたちも同様に頷きを返した。
「私たちも、自らの自由を守るために戦う覚悟がある。トラプトニアンの支配に終止符を打つため、私たちの知識と力を提供しよう。」
ヴェインの声には確固たる決意が込められていた。それに応えるように、背後のレプリシアンたちも深く頷き、その連帯感が場の緊張を少しずつ和らげていく。
ヴォーンがそれに続けるように声を上げた。
「彼らが共存を望むかどうかも重要だが、問題はそれを人間がどう受け入れるかだ。」
その言葉に、レイナが振り返りながら鋭い眼差しをヴォーンに向ける。
「だからこそ、彼らと人類の双方が信頼を築ける形を模索する必要がある。それを可能にするのが、ここにいる私たちの役割だ。」
静寂が一瞬訪れた後、瓢六が冷静に口を開いた。
「だが、もし裏切るようなことがあれば、我々は壊滅することになるだろうな。」
彼の声には感情的な色はなく、状況を冷静に分析する鋭さがあった。視線はヴェインに向けられているが、その背後に立つレプリシアン全員を見据えているようにも感じられた。
ヴェインはその言葉を正面から受け止め、落ち着いた声で答えた。
「それは理解している。我々は信頼を得るために行動し、必要であれば命を懸ける覚悟もある。」
その言葉を聞いたレイナはヴェインに向き直り、彼の目をしっかりと見つめた。
「ならば、あなたたちの覚悟を見せてもらおう。共に未来を築くために、今必要なことを始める。」
その後、レイナたちはレプリシアンたちの協力を得て、トラプトニアンの技術の解析を進めた。彼らの浮遊艦の内部構造やエネルギーシステム、さらには宇宙航行技術までもが徐々に解明されていった。
レイナがその場で浮遊艦の運用計画を練り上げているとき、彼女の表情にはかすかな安堵が浮かんでいた。
「この船を制御できれば、トラプトニアンの支配に終止符を打つだけでなく、人類に新たな未来をもたらすことができる。」
その未来を形作るのは、人間とレプリシアン、そしてこの地球に残されたあらゆる生命の力を合わせたものであるべきだと実感していた。
レプリシアンたちの協力は、私たちにとって必要不可欠な存在となった。そして、その中心に立つレイナが、歴史を動かす決断を下す時が訪れようとしていた。