一方で、私たちを歓迎する宴が盛大に開催されることになり、交渉団全員が招かれた。
宴は浮遊艦の広大なホールで行われ、トラプトニアン独自の文化を色濃く反映した装飾が施されていた。壁には彼らの文化を象徴するような彫刻や映像が映し出され、不思議な神秘性を演出していた。
トラプトニアンたちが振る舞う料理や飲み物は、見たこともないような鮮やかな色彩と形状をしており、私たち地球人にとっては異質でありながら、どこか興味を引くものだった。
「皆さんの訪問を心から歓迎します。」
司令官が杯を掲げながら、丁寧な言葉で挨拶を述べた。その表情は柔らかく、どこか真意を探るような視線が隠されていたが、私たちも笑顔を返しながら席に着いた。
瓢六は終始落ち着いた態度で、トラプトニアンたちと会話を交わしていた。その口調は穏やかで礼儀正しく、彼らの警戒心を和らげる役割を果たしていた。一方で、レイナやドクター・ヴォーンは周囲の状況に気を配りながら、場の様子を観察していた。
私もまた、表向きは礼儀正しく振る舞いながら、心の中では別のことを考えていた。この歓迎の宴は、ただの社交の場ではない――彼らもまた、私たちを観察し、探ろうとしているのだ。
宴の途中、リセノヴァが私と瓢六に話があると言い、二人だけを応接室に招いた。瓢六を招くのはわかるが、なぜ私を招く必要があるのだろう?私を招く理由は重要な話を。
「お招きいただき感謝します。」
瓢六が礼儀正しく頭を下げたが、その声には微かな探りを入れる意図が感じられた。
リセノヴァは静かに頷き、鋭い視線で私たちを見つめた。その目には、彼の内に秘めた激しい情熱と決意が浮かんでいた。
「私はあなた方に隠すつもりはない。」
リセノヴァは、ためらうことなく核心に切り込んだ。
「前王の死――それを企てたのは私だ。」
その言葉に私は一瞬息を呑んだ。驚きと共に、彼がなぜ自らその事実を明かすのか、その意図を測りかねた。
彼は続けて冷静に語った。
「私は強欲な地球人を利用した。彼らは地位と先進技術を求めていた。彼らに協力を持ちかけ、王を排除する計画を練ったのだ。」
その声には後悔や罪悪感はなく、むしろ確信と冷徹な意志が滲んでいた。彼の言葉が持つ重みと、その背後にある徹底した合理性が、私の中に不安と驚愕を同時に引き起こした。
リセノヴァの目が私と瓢六を見据える。その目には、自らの行動が正義であり、未来への必要な犠牲だと信じる強い意志が宿っていた。
「だが、私が目指すのは単なる権力の掌握ではない。」
リセノヴァは続けた。
「前王の築いた均衡は、不安定で脆弱だった。いずれ崩壊する運命にあったのだ。私が望むのは、誰かが支配者として君臨するのではなく、すべての種族が平等に共存し、確固たる調和の中で繁栄する未来だ。そのためならば、いかなる犠牲もいとわない。」
その声には、彼の強硬な行動がただの野心から来るものではないことを示す強い信念が込められていた。彼を突き動かしているのは、単なる権力欲ではない――民を思う純粋な情熱と、宇宙全体に調和をもたらすという崇高な理想だった。
瓢六はその話を静かに聞いていた。そして、満足げな笑みを浮かべると、自らの望みを語り始めた。
「私が望むのは、トラプトニアンを神とし、その神の代理人として人類を導くことです。人類を守護し、トラプトニアンとの共存を支える。そのためにこそ、この交渉を進めているのです。」
その言葉に、リセノヴァは目を細め、満足げに頷いた。
「素晴らしい。」彼の声には、瓢六への期待と喜びが滲んでいた。
「あなたのような存在が、私の理想に共鳴することは心強い。共に歩むことで、この宇宙に真の調和をもたらそうではないか。」
リセノヴァの理想と瓢六の計画が交わった瞬間、私はその場に立ち会うことの意味を改めて感じた。この会話の内容を記録する重要な証人として、私を立会わせたのだろう。
二人の思惑が交錯することで、この戦争が新たな方向へと進むのか、それともさらに複雑な道を辿るのか――その答えは、まだ誰にもわからない。
交渉を終えた私たちは再び地上へ戻ったが、ヴァルハラ隊の工作チームを浮遊艦に残した。チームは艦内の要所を確認しながら、艦隊全体を掌握するための調査を進め、秘密裏にある仕掛けを施す。
瓢六は終始冷静な態度を崩さず、ドクター・ヴォーンは手持ちのデータ端末に何かを記録していた。私は、イモケンピが石船でどのように行動を起こすのかを想像しながら、静かに思考を巡らせていた。
「これで、一つ目の目標は達成しましたね。」
瓢六が静かに言葉を発した。その声には、計画が順調に進んでいるという確信が滲んでいた。
「だが、次が本当の勝負だ。」
ドクターはその言葉に短く頷きながら答えた。
「石船がどう反応するか、次にどんな行動を起こすのか。それが鍵になるな。」