一方、ドクター・ヴォーンは別のアプローチを取った。
「艦内環境やエコシステムについて詳しく学びたいのです。これは、今後の地球とトラプトニアンの共存に役立つ知識になるでしょう。」
その申し出に、トラプトニアンの科学者たちは一瞬考えた後、見学の許可を与えた。ドクターはこれを利用し、艦内の技術やシステムを徹底的に観察する機会を得た。
もう一方で、レイナも別の動きを見せた。
「水の汲み上げ作業を監視する必要があります。これは安全のためだけでなく、提供する水がトラプトニアンの環境基準を満たし、双方にとって最善の結果を生むことを保証するためです。責任ある供給者として、それを確認するのは私たちの務めです。」
そう名目を掲げ、彼女はトラプトニアンの案内係とともに7隻の各艦を移動する許可を得た。これにより、彼女は各艦隊の配置やシステムを把握し、地球側にとって有利な情報を収集するための足掛かりを確保した。
交渉が進む中、それぞれが異なる目的を持ちながらも、着実に次の段階へと歩みを進めていた。表向きの友好の裏に隠された計画が、静かに動き出していた。
イモケンピは私の手を握り、その赤い瞳で一瞬だけ私を見つめた。そして、何かを悟らせるような笑みを浮かべながら静かに言った。
「ちょっと行ってくる。」
その瞬間、からだが少しだけ軽くなったような気がした。彼の姿は霧のように薄れ、次の瞬間には艦内のトラプトニアン高官のひとりに取り憑いていた。
イモケンピはその高官の視点を通して浮遊艦の構造を確認し、次なる目標――地球外に停泊する母船「石船」への道筋を整え始めた。
浮遊艦内では、汲み上げられた海水がトラプトニアンの科学者たちによって念入りに調査されはじめていた。その水はトラプトニアンの生態系に適しているかを確認するためだ。その調査が終わると、海水はすぐに輸送船に積まれ、石船へと運ばれる手はずになっていた。
イモケンピはこの輸送の流れを利用する。高官を介して輸送船の手配を確認し、その船と共に石船に潜入することになる。
石船――それはトラプトニアンの中枢であり、彼らの居住船でもある。そこにイモケンピが入り込むことで、私の計画は新たな段階へと進む。