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第64話 重要な交渉

浮遊艦訪問の日、地上には私たちを迎える高速輸送艇が静かに待機していた。全長は約30メートルほど、独特な流線型のその船体は、まるで異次元から現れたような存在感を漂わせている。私たちは広々とした船に乗り込み、浮遊艦へと向かった。


4,000kmの距離をたった30分で駆け抜ける高速輸送艇。その速度の凄まじさに驚く間もなく、目の前に圧倒的な威容を誇る浮遊艦が姿を現した。その巨体は空を切り裂くように堂々と浮かび上がり、人間の想像を遥かに凌駕し、まるで天空を支配しているかのような威圧感を放っていた。


高速輸送艇がゆっくりとデッキ内に収容されると、その広大な空間が目に飛び込んできた。壁には無数のホログラムが浮かび、動きを感知して光る誘導ライトがデッキの床を縁取っている。この空間は完全に自動化された世界であるようだ。


輸送艇を降りると、私たちはトラプトニアンの司令官と高官たちに迎えられた。彼らの立ち居振る舞いには威厳が漂い、まるで私たちを品定めしているかのような視線が注がれる。


その場には、評議会のメンバーたちも揃っていた。彼らの中に、特に目を引く人物――強硬派のリセノヴァがいた。


リセノヴァは、次期王の座を狙う男だ。彼の存在感は圧倒的で、まるで野心そのものが形を成したかのような冷酷な目つきが印象的だった。彼の動向ひとつで、この交渉の成否が大きく揺らぐだろうと直感した。


浮遊艦内では、まず居住スペースや施設、設備についての説明が行われた。私たちが受けた印象は、トラプトニアンの技術力と組織の徹底した効率性が反映された設計ということだ。すべてが機能的で無駄がない。


説明が終わると、私たちは巨大な会議ホールへと案内された。ホールは厳粛で、冷たい光が空間全体を照らしている。その場に漂う緊張感は、これから始まる初の交渉の重要性を物語っていた。


私は深く息を吸い、視線をリセノヴァに向けた。彼の冷たい微笑みが、まるでこちらの意図をすべて見透かしているかのように思えた。




瓢六は交渉の場で友好の姿勢を崩さず、水の提供がいかに地球人とトラプトニアン双方の生活を支える重要な役割を果たすかを説得力のある言葉で伝えた。


「水は、この宇宙で最も神聖なものです。」


瓢六は柔らかな声は、場の空気を和らげると同時に、強い意図を秘めていた。


「その水を私たちが提供するのは、単なる資源の供給ではありません。それは、共に未来を築くための象徴なのです。」


彼の落ち着いた言葉に、交渉団のメンバーたちは静かに頷き、トラプトニアン側も慎重に耳を傾けていた。


瓢六が穏やかな声で提案した。その声には一切の焦りや揺らぎがなく、場の空気を巧みに掌握していた。


「もし私たちを信頼できる存在だと感じていただけるなら、他の浮遊艦でも少量の水を汲み上げることを許可しようと思います。」


その言葉に、浮遊艦の司令官はわずかに眉を上げ、考えるような素振りを見せた。しかし、その表情はすぐに穏やかなものへと変わり、彼はゆっくりと頷いた。


「あなたの言葉には誠意を感じました。その提案に感謝します。」


瓢六の冷静で洗練された交渉術が、またひとつ成果をもたらした瞬間だった。彼が許可を与えることで、交渉の主導権を握りつつ、トラプトニアンに信頼の印象を植え付ける。その巧妙さに、私は改めて彼の計画の緻密さを感じた。


この一連のやり取りが、表向きの友好の証として、そして裏ではさらなる計略の布石として、静かに動き出した。

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