4日後、地球防衛司令部(EDC)は、トラプトニアンの管理統制艦、第七浮遊艦に対して総攻撃を開始した。飛行可能な全戦闘機を動員し、長距離ミサイルとドローンを駆使しての大規模な攻撃だった。
しかし、敵の無人機による迎撃の壁は厚かった。強固な防御網により、いかなる攻撃も第七浮遊艦には届かなかった。
苛立ちを募らせたEDCは、最後の切り札である核兵器に手を伸ばした。
EDCは密かに1960年代に放棄されたグリーンランドの核施設を再稼働させ、核ミサイルの発射体制を整えていた。そして、数十発もの核ミサイルを一斉に発射した。その行為は、まさに絶望的な抵抗の象徴であり、同時に人類の愚かさを露呈するものでもあった。
核ミサイルがもたらす影響は甚大だ。放射能汚染は大気と海洋に広がり、氷床の融解や「核の冬」を引き起こす可能性が高い。電磁パルスによる電力網の麻痺で、文明は混乱と破壊に陥る。人類だけでなく、地球そのものが致命的な損害を受けることは容易に予想できた。
それを知りながらも、EDCは核を放った。地球を自分の家の庭とでも思っているのだろうか? その行為は、地球全体を危機にさらしながら、全人類の未来をも見捨てたと言える。
「愚劣な人間どもめ……」
私は心の中でつぶやいた。価値がない人間どころか負を生み出す存在。こういう人間がこの世界にいる理由は何だ?いや、そんな理由はない。ただの疫病神は排除されて当然だろうと本気で考え始めていた。
しかし、トラプトニアンの迎撃レーザーが核ミサイルを正確に捉え、空中で次々と無力化していった。閃光が幾度も空を裂いたが、核爆発はひとつも起こらなかった。
地球規模の破壊は回避された。しかし、この出来事はEDCの暴走を象徴するものとして、歴史に深く刻まれることとなった。
「これで、EDCを潰す理由が揃いましたね。」
瓢六は静かに微笑んでいたが、その声には隠しきれない怒りが滲んでいた。
それから半日も経たないうちに、EDC壊滅の報が届いた。ノースダコタ州の地下要塞にある本部は、瓢六の計画通り、わずか数時間で制圧された。
レプリシアン部隊と「神の手」の戦闘部隊が本部を襲撃したのだ。私は報告を聞きながら、内心の不安を拭い去ることができなかった。
すべてが瓢六の思惑通りに進んでいるように見える。その計画の緻密さと実行力に戦慄すら覚える一方で、彼の真の目的がどこにあるのか、疑念が募るばかりだ。
壊滅したEDCの地下要塞は、その場で「神の手」によって接収された。地下深く広がる広大な施設は、「神の手」の新たな拠点として運用されることになる。
かつて世界中の戦略を司っていた地球防衛司令部は、完全にその歴史に幕を閉じた。
この戦争の発端を作ったリチャード・フレイザー統合司令官と副官ヴィクター・クレイドは、接収されたEDCの地下要塞内で射殺された。
「正しい判断だ。」
瓢六は淡々と処刑の報告を受け、短く頷いただけだった。その瞳には何の感情も宿っておらず、まるで予定通りの業務を終えたかのような様子だった。
裁判にかけることすら「時間の無駄」と判断されたのだろう。彼らを生かしておいても交渉材料にもならず、むしろ混乱を助長するだけ――そういった冷徹な計算のもとでの処置だったに違いない。
要塞の制圧を伝える報告の中、瓢六は淡々と次なる指示を下していた。その姿は冷静で、成功を当然のものとして受け止めているようだった。