その夜、作戦後の静けさの中で、レイナは一人、外のベンチに座り、遠くの山々を見つめていた。夏の空気はまだ少し湿り気を帯びており、昼間の暑さの余韻が地面から立ち昇っている。遠くから聞こえるカエルの鳴き声が、静寂を際立たせていた。
月明かりが山肌をぼんやりと照らし、夜風が静かに頬をかすめていく。
「隣いいか?」
背後から聞こえた声に、彼女は振り返った。そこには彦作が立っていた。彼はどこか迷うような仕草を見せながら、それでも毅然とした眼差しでレイナを見ていた。
「ああ…」
レイナはそっと体をずらし、隣を示した。
「礼を言いに来た。俺は魔女にもヴァルハラ隊にも感謝してる。ボスにもあの悪魔にも。……俺に居場所をくれたからな。」
彼の言葉には、不器用ながらも真摯な感情が滲んでいた。その声色は軽い調子に聞こえるが、そこに隠された重みをレイナは感じ取る。
「そうか。」
彼女は視線を山に戻したまま、小さく呟いた。
「それを言いに来た。」
彦作が立ち上がるとレイナが声をかけた。
「待て……いい夜だ。ここで一杯付き合え。」
彦作は少し驚いた様子を見せたが、すぐに穏やかに笑みを浮かべた。
「ああ、付き合うぜ。」
彼は背中に隠していたウィスキーのボトルを取り出し、グラスを二つレイナに差し出した。彼の用意の良さに、レイナは思わず口元を緩めた。
レイナ、胸の奥に芽生えた新たな感情に気づいた。魔女は畏れられ蔑まれる存在。しかし、彦作はその魔女を「守る」と言った。その一言が、冷静で理論的だったレイナの心に、彦作の存在が深く刻まれ始めていた。
魔女と騎士。二人の距離は、確実に縮まりつつあった。