山間部に位置するこの町。霧が立ち込める早朝、ヴァルハラ隊の偵察チームから緊急の連絡が入った。
敵の潜入部隊が残した残骸を調査していると思われるドローンが周辺を飛び回っているというのだ。
私は、すぐに地図を確認した。敵が再び動き出す兆候――放置すれば、この町は危険にさらされる。
私は彦作に連絡を取りレイナの基地へ向かった。
「レイナ、どうする?」
レイナの目は冷静だが、わずかな緊張が伺える。
「撃墜する。だが、撃墜する前に連絡されるだろう。このままでは位置を特定される可能性がある。」
レイナは計画を頭の中で組み立てていた。
「この地域で飛び回る敵ドローンは監視モードで移動が遅い、局地的な電波妨害を仕掛け、その隙に撃墜する。ただし、妨害は60秒が限界。その間に決着をつける。」
私たちは中継地点として適切な場所を探し、郊外型のスーパーマーケットを拠点とした。広い駐車場は滑走路の代わりにもなりそうだ。周囲は木々に囲まれ、敵から視覚的に隠れるのに最適だった。
無線の電波でドローンを引き付け、エンゲージメントエリアへ誘導し、電波妨害と煙幕で敵の視覚を奪い、そこで、超低空で侵入した戦闘機でドローンを撃墜する。
「電波妨害と煙幕でミサイルは使えない。目視による機銃攻撃のみ有効だ。」
彦作の表情はいつものぶっきらぼうなものだが、どこか自信に満ちている。
「魔女の誘導次第だ。俺は確実に仕留める。」
レイナは静かに頷いた。
夏の夕暮れは、空気が肌にまとわりつくほど重かった。山間部を包む湿気が、静けさの中に張り詰めた緊張感を高めていた。日が沈むにつれ、空は茜色から深い群青へと移り変わり、蝉の鳴き声も徐々に遠ざかっていく。その静寂を破るように、作戦が始まった。
彦作は基地の滑走路でタイガーⅡ戦闘機に搭乗し待機していた。彼の手は操縦桿にしっかりと置かれ、顔には決意が滲んでいる。無線からレイナの冷静な声が届く。
「敵ドローン接近、距離3000。」
「ウィッチナイト、作戦開始。」レイナが指示を飛ばす。
「こちらウィッチナイト、了解。」
彦作は応じると、すぐにエンジンを始動させ、滑走路代わりの駐車場を駆け抜ける。暗闇の中へ機体が吸い込まれるように飛び立った。
「電波妨害、開始。」
レイナが指示すると同時に、モニターに妨害範囲が表示された。
「ウィッチナイト、60秒カウント開始。」レイナの声が響く。
「ウィッチナイト、了解、カウントを開始する。」
彦作は視界を夜間用ゴーグルで補いながら、低空飛行でエンゲージメントエリアへ向かった。