その夜、私はリビングの机に肘をつき、資料の山を前に黙り込んでいた。蒸し暑い夏の夜、薄暗いランプの光が紙面に淡い影を落とし、その揺らめく影が、まるで今の混沌とした状況を映し出しているかのようだった。
最近仲間になった者たちとの協力関係だが、その土台はあまりにも脆い。目指す先が大きく異なるからだ。私の目的は明快だ。
トラプトニアンを排除し、この星を人類の手で守り抜くこと。しかし、救う価値もないような人間が多いことが本来の目的を揺らがせる。――その考えが胸の中で密かに蠢いている。
他の者たちの目的は複雑で、それぞれが別の未来を描いている。
イモケンピ。彼の目的は一見単純だ。私の魂を得ること――だが、あの赤い瞳の奥に潜む意図は私にはまだ見通せない。
彼の振る舞いには、人間的な温かみさえ垣間見える瞬間がある。それが計算されたものなのか、あるいは真実なのか……その答えを知るほど、私はまだ彼を理解していない。
そしてユリウス・カイン――彼はトラプトニアンを「神」と崇め、その神と共に新たな共存の未来を夢見ている。彼の熱狂的な目は、私たちが直面する現実とはどこか遊離している。それでも、その狂気じみた信念が、彼を動かしているのだろう。
「魔女」と呼ばれるレイナ。彼女の目的は、地球の再生だ。そのために彼女は、トラプトニアンの浮遊艦を手に入れようとしている。だがその行動には、どこか冷徹さが宿っている。地球を守るという崇高な目的の裏に、彼女個人の野望が隠されているように思える。
ドクター・マーカス・ヴォーン――冷静で理知的なマッドサイエンティストは、トラプトニアンの技術である複製人間の技術を確立しようとしている。その目的が人類の救済にあるのか、それとも彼自身の名声と栄光にあるのかは定かではない。彼の真意はまるで分厚い壁の向こう側にあるように、掴みきれない。
生き物の研究と生態系を研究しているトラプトニアンのカリドゥスは、動物をはじめとする生き物を母星に持ち帰ろうとしている。特に空を飛ぶ鳥などの生物だ。母星で原始の世界を取り戻したいようだ。
ほんの少しだけ先が見える超能力者――彦作の目的は単純で崇高だ。
「弱いものを守ること」――それが彼を動かす原動力だ。人間であれ動物であれ、守るべきものを見つけた時、彼は自らの命を顧みずに行動する。その献身的な姿は、周囲の人々に勇気を与えると同時に、彼自身の孤独を際立たせている。
「神の代理人」ユリウス・カイン、「悪魔」イモケンピ、「魔女」レイナ、「科学者」ドクター・マーカス・ヴォーン、「生物研究者」カリドゥス、「超能力者」彦作、そして「人間」である私。七者の思惑が、まるで蜘蛛の巣のように複雑に絡み合っている。この協力関係がどのような結末を迎えるのか、それを予測することなどできるはずもない。
「ふーむ、ややこしっ」
この混沌の中で、本当に守るべきものとは何なのか――そして、守るべきではないものを切り捨てる覚悟が自分にあるのか。私の心は揺れながらも、その未来の選択に向けて静かに準備を進めていた。