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第48話 新世界の使者

彼は自らの過去を語り出した。6年前に「啓示」を受けた彼は、この戦争を『聖書』における最終戦争、つまりハルマゲドンと解釈しているという。そして、その先に訪れる新しい世界――調和の取れた人類とトラプトニアンが共存する未来を信じているのだと。


「私は、この星をトラプトニアンと共に新しい世界へ導く神の使者となる。それが私の役目です。神の代理人として地球を加護し、選ばれた者だけが救済される新世界を築く。それが地球を救う唯一の道です。」


「加護する?」


イモケンピが口を挟む。


「そのために、彼らを神と崇めるというのか?」


「その通りです。」


ユリウスの目には揺るぎない信念の炎が宿っていた。


「彼らは侵略者ではありません。私たちに進化の可能性を与える存在です。共存しなければ、私たちに未来はありません。」


その言葉に、私は一瞬心が揺れた。だが、自分の中にある信念を握り直し、毅然として言葉を返す。


「私は争いをなくし地球を守ることが重要だと信じています。争いの元は全て絶ちたいと思っています。」


ユリウスは私の言葉に静かに微笑み、肩をすくめた。その仕草は、彼の余裕と確信を如実に表しているようだ。


「やはり、同じような目的をお持ちでしたね。どうです?私と協力しませんか?」


その提案を聞いた瞬間、私は内心で警戒を強めた。これが言葉巧みな新興宗教の教祖のやり口か――そう思わずにはいられなかった。


その時、イモケンピがそっと瓢六の肩に手を置き、私の方を見た。その赤い瞳がまっすぐにこちらを射抜く。


「騙しじゃない。この男の言っていることは本当だ。」


イモケンピが彼の魂に触れたのだろう。


「それどころか誰よりも強い信念が魂を支配している。」


「わかっていただけましたか?」


ユリウスは微笑みを浮かべたまま言う。その表情には、どこか神秘的な光を感じた。


イモケンピは少しの間、私の反応を待つように沈黙していたが、再び口を開いた。


「協力してやれ。こいつも使える。」


その言葉を聞き、私は一瞬迷ったが、深く息を吐いて頷いた。


「わかりました。協力しましょう。」


ユリウスは目を輝かせながら続けた。


「ところで、イモケンピという名前なのですね。」


「ん?それがどうした。」


イモケンピが首を傾げる。


「私もそう呼んでいいですか?」


「ああ、かまわん。」


イモケンピはユリウスを見下ろしながら、冷ややかに言い放った。


ユリウスは口元に薄く笑みを浮かべた後、さらりと言った。


「では、イモケンピ、あなた達には見えていないと思いますが、私の式神があなたの足にずっと噛みついています。」


「なっ?」


イモケンピが驚きの声を上げ、足元を見る。


「どうりで足が重いと思ったんだ。」


ユリウスが指を2本立てて、フッと息を吹きかけると、イモケンピの足に噛みついている犬のようなモノが、牙を剥いて足に噛みついているのが見えた。


ユリウスは静かに頷く。


「悪霊が私に近づいてくると、式神が襲いかかるんです。悪魔も例外ではないようですね。」


「お前、シャーマン……いや、陰陽師か?」イモケンピが犬のようなモノと戯れている。


その場の緊張が少しだけ和らいだ。だが、ユリウスの存在が何を意味するのか――それはまだ未知数だった。

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