数日後、和平交渉を目的とした会議が再び開かれた。真夏の陽射しが容赦なく降り注ぎ、蝉の鳴き声が遠くで響く中、室内に漂う空気はまるで凍りついたかのように重い。
テーブルを囲む代表者たちの間では、険しい視線が交わされ、激しい意見の応酬に埋もれる中、私は勇気を振り絞り発言した。
「少量の水を無条件で与えることを提案します。まずは浮遊艦一隻を対象に、友好的に交渉の糸口を探るべきです。それが成功すれば、石船――彼らの母船の代表者と直接話ができるかもしれません。」
一瞬、会議室に静寂が訪れた。この場にいる人間の中には、不信感を露わにする者もいた。
しかし、「神の手」の教祖と呼ばれるユリウス・カインが頷き、穏健派のカリドゥスもそれに続く形で同意を示した。
「素晴らしい提案です。」
ユリウスが言う。
「まずは対話の道を切り開きましょう。これが未来への第一歩になると信じています。」
この提案は双方の組織内で協議されることになったが、各国の機関との調整は容易ではない。
そこで私は、司令部には内密に地球統合諜報機関のドクター・マーカス・ヴォーンに連絡を取り、事前の根回しを依頼することにした。ドクターは快く応じてくれた。
「了解した。任せたまえ。」
その言葉は、難局を切り抜けるための、わずかながらも確かな希望となった。
会議が終わり、私はイモケンピと共に廊下を歩いていた。会議室を離れたことで張り詰めていた緊張が少しずつ緩み、足取りもわずかに軽くなっていた。
「少しお時間をいただけますか?」
振り返ると、そこにはユリウスが立っていた。その穏やかな表情は変わらず、しかしその眼差しには何か特別な目的が宿っているように感じられた。
私たちは彼に導かれるまま、施設の外にある小さな公園まで移動した。
夏の夕方の空気は心地よく、草木の香りがほのかに漂っている。公園の奥にあるベンチに腰を下ろし、そこで話をすることになった。
彼の表情は相変わらず穏やかだったが、その佇まいにはどこか超然とした雰囲気が漂っていた。まるで彼だけが、私たちがまだ知らない次の展開を見通しているようだった。
「私の送った資料に目を通していただけましたか?」
ユリウスの問いに、私は眉をひそめた。
「あの資料……あなたが送ったものだったんですか?」
驚きを隠せないまま、その意図を探るように問いかける。
「あれは真実ですか?」
ユリウスは頷き、静かに語り始めた。
「私はユリウス・カイン――本名は山田 瓢六。『神の手』を率いる者です。」
その言葉を聞いた瞬間、私は息を呑んだ。イモケンピも一瞬だけ目を細めたが、すぐに無表情を取り戻す。