ある夜、映画を観終えた後、私たちはソファに並んで静かに座っていた。薄暗い照明が温かな光を投げかけ、外の風の音が微かに耳に届く。イモケンピは、ぽつりと呟いた。
「不思議なものだ。お前のように語り合う相手がいるだけで、こんなにも心が騒ぐのだから。」
その声は、これまで聞いたことがないほど静かで、どこか寂しげだった。その言葉に、私の胸が締め付けられるような感覚を覚えた。悪魔である彼が、そんな感情を抱くことがあるとは。
「それは、イモケンピが孤独だったからじゃない?」
普段は冷笑や皮肉を交えた視線を向けてくる彼が、今はただ無言で座っている。その瞳には、悪魔とは思えないほどの繊細さが宿っていた。
「孤独か……」彼は小さく笑った。
その笑みには、普段の不気味さや挑発的な雰囲気は感じられなかった。
「お前が孤独を語るのは、お前自身がそれをよく知っているからだろう?」
図星を突かれたようで、言葉を返すことができなかった。彼はいつも私の心の奥底まで見透かしてくる。そして今もまた、触れてほしくない部分をそっと突いてきた。
けれど、それでも、私は伝えたかった。
「今は私がいる。孤独じゃないよ。」
そう口にした瞬間、彼の赤い瞳がゆっくりと私を見つめた。その視線に、何かが変わるのを感じた。それは、微かな期待のような、戸惑いのような感情の揺らぎだった。
「……お前がそう言うのなら、信じてみるのもいいかもしれないな。」
彼の言葉が、私の胸にじんわりと染み込んでいった。部屋の静けさの中で、私たちは無言のままソファに並んで座っていた。
窓の外から漏れる月明かりが、彼の横顔を淡く照らしている。距離の近さに、彼の体温がほんのりと伝わってくるような気がして、不思議と心が温まった。
「こんな夜があるとは思わなかった。」
イモケンピが静かに呟いた。
「どんな夜?」
「悪魔である私が、誰かとこうして寄り添う夜だ。」
その言葉に、私の心が小さく震えた。彼の中にも確かに、人間のような感情が宿っている。それを知った瞬間、彼がどこまでも遠い存在だと思っていた私の中に、ある種の親近感が生まれていた。
夜が深まるにつれ、私たちはお互いの心に触れるように静かな時間を過ごした。互いに寄り添いながら、無理に何かを言葉にすることもなく。ただそこにいるだけで十分だった。
その夜、私たちの心は少しだけ、確かに重なっていた。悪魔と人間という境界を越えて。