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第46話 静かな夜

ある夜、映画を観終えた後、私たちはソファに並んで静かに座っていた。薄暗い照明が温かな光を投げかけ、外の風の音が微かに耳に届く。イモケンピは、ぽつりと呟いた。


「不思議なものだ。お前のように語り合う相手がいるだけで、こんなにも心が騒ぐのだから。」


その声は、これまで聞いたことがないほど静かで、どこか寂しげだった。その言葉に、私の胸が締め付けられるような感覚を覚えた。悪魔である彼が、そんな感情を抱くことがあるとは。


「それは、イモケンピが孤独だったからじゃない?」


普段は冷笑や皮肉を交えた視線を向けてくる彼が、今はただ無言で座っている。その瞳には、悪魔とは思えないほどの繊細さが宿っていた。


「孤独か……」彼は小さく笑った。


その笑みには、普段の不気味さや挑発的な雰囲気は感じられなかった。


「お前が孤独を語るのは、お前自身がそれをよく知っているからだろう?」


図星を突かれたようで、言葉を返すことができなかった。彼はいつも私の心の奥底まで見透かしてくる。そして今もまた、触れてほしくない部分をそっと突いてきた。


けれど、それでも、私は伝えたかった。


「今は私がいる。孤独じゃないよ。」


そう口にした瞬間、彼の赤い瞳がゆっくりと私を見つめた。その視線に、何かが変わるのを感じた。それは、微かな期待のような、戸惑いのような感情の揺らぎだった。


「……お前がそう言うのなら、信じてみるのもいいかもしれないな。」


彼の言葉が、私の胸にじんわりと染み込んでいった。部屋の静けさの中で、私たちは無言のままソファに並んで座っていた。


窓の外から漏れる月明かりが、彼の横顔を淡く照らしている。距離の近さに、彼の体温がほんのりと伝わってくるような気がして、不思議と心が温まった。


「こんな夜があるとは思わなかった。」


イモケンピが静かに呟いた。


「どんな夜?」


「悪魔である私が、誰かとこうして寄り添う夜だ。」


その言葉に、私の心が小さく震えた。彼の中にも確かに、人間のような感情が宿っている。それを知った瞬間、彼がどこまでも遠い存在だと思っていた私の中に、ある種の親近感が生まれていた。


夜が深まるにつれ、私たちはお互いの心に触れるように静かな時間を過ごした。互いに寄り添いながら、無理に何かを言葉にすることもなく。ただそこにいるだけで十分だった。


その夜、私たちの心は少しだけ、確かに重なっていた。悪魔と人間という境界を越えて。

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