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第44話 秘密の研究室

私の元に届いた極秘通信の文書を、再び読み返していた。


差出人は山田瓢六――データにはない謎の人物だ。彼は私に協力を求めていたが、果たして、あの文書に書かれていることは本当なのだろうか?


疑念を抱えたまま、私はドクター・マーカス・ヴォーンの研究所を訪れることにした。彼の知識と人脈なら、この情報の真偽を確かめる手がかりを得られるかもしれない。


ドクターの研究所は、まるで異世界に迷い込んだかのような空間だった。どうやってここまで運び込んだのか想像もつかないほど巨大な最新機材が所狭しと並び、その隙間には不気味な骨董品が無造作に置かれている。異様な組み合わせが、どこか現実離れした雰囲気を醸し出していた。


「おお、悪魔殿、よくいらした。こちらの方は撃墜王とお見受けする。」


「なぜ知っているんです?」


彦作が驚いた声を上げる。


「私は地球統合諜報機関の人間だ。情報はいくらでも入ってくる。君の武勇伝も聞いておりますよ。」


ドクターは笑みを浮かべながら答える。


「なにか飲み物でも如何がですかな?」


ドクターが唐突に尋ねる。


「オレンジジュースでも、ビールでも、なんでも揃っておりますぞ。」


「オレンジジュース?今は貴重品なのに、どうしてそんなものがあるんですか?」


「私の直轄にある特務部隊『アーガス』は、あらゆる物資を調達するのが得意でね。ここの機材も調達して運ばせた。」


イモケンピが赤い瞳を輝かせながら尋ねる。


「じーさん、その組織でどれくらいの大物なんだ?」


「長官の次の次ぐらいだ。局長と呼ばれてる。」


「局長!?……局長がこんなところにいていいんですか?」


彦作が信じられないという顔で聞く。


「どこにいてもやることは変わらん。大事なのは目的を達成することだ。」


イモケンピがニヤリと笑う。


「じーさん、缶詰はあるか?」


「おお、フルーツの缶詰でよければ。」


「フルーツ?フルーツの缶詰というのがあるのか?それをくれ。」


イモケンピは、珍しいものを見つけた子どものように少し興奮しているようだった。


「私はオレンジジュースを。」私が続ける。


「俺はビールをください。」彦作も加わる。


飲み物が手渡されると、私は送られてきた秘匿メールを見せた。ドクターは内容を見て、時折小さく頷く。


やがて彼は、静かに言った。


「すべて本当のことだよ。トラプトニアンも人類も、内部が混乱している。だからこそ、膠着状態が続いているんだ。」


「この状況を打開するのが私たちの目的です。」


私は決意を込めて言った。


「悪魔殿の力を使えば、可能かもしれませんな。」


ドクターが微笑みながら続ける。


「いつでも計画には協力しますよ。私達は協力関係にありますからな。」


その口調は穏やかだが、どこか試すような響きも含まれていた。


「ドクター、戦闘機は手に入りませんか?」


彦作が唐突に尋ねた。


「戦闘機?何に使う?」


ドクターは首をかしげながらも、興味を示した。


「仲間を守るために。」


その一言に、ドクターは少し驚いた表情を見せた。そして、真剣な目で彦作を見据えた。


「それが君の目的なのか?」


「はい。」


彦作は即答した。その答えを聞いて、ドクターは視線を私とイモケンピに移した。


「そいつはそういうやつだ。」


フルーツの缶詰を食べながらイモケンピが言う。いつもの皮肉混じりの口調だが、そこには少し誇りも感じられた。


ドクターは彦作の方を向き、問いかけた。


「何がいい?」


「F-2かF-15を。」彦作は迷いなく答えた。


しかし、ドクターはすぐに首を横に振る


「無理だ。どちらも現存していない。」


「では、F-35かF/A-18を。」


彦作は少しだけ間を置きながら言葉を続けた。


「手には入るが整備が必要な機体ばかりで交換部品がない。」


ドクターはそう言いながら、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「では、何が手に入りますか?」彦作は食い下がる。


ドクターは軽く微笑みながら言った。


「ここで運用できるのは、骨董品のF-5 タイガー II、ドラケンあたりだな。」


「それで結構です。手に入れていただけますか?」彦作は小さく頷き、静かに答えた。


「いいだろう。」


ドクターは少しの迷いもなく承諾した。その口元には穏やかな笑みが浮かんでいる。


「あ、それと大量の酒を。」


その一言で空気がわずかに和らいだ。ドクターは笑いをこらえきれず、楽しげに答えた。


「わかった。それも用意しよう。」


研究所には、一瞬だけ柔らかな空気が流れた。しかし、その裏にあるのは厳しい戦いへの覚悟だと、全員が心の奥底で理解していた。

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