翌朝、イモケンピが何やらぶつぶつと呟きながら考え込んでいる様子だった。おそらく、トラプトニアンを排除するための計画を練っているのだろう。
「どうやったら面白いか……エイリアンは水を欲しがっている。……これを利用すればいいが、……もっと面白い方法はないか……どうやって中に入り込むか。」
ぶつぶつと独り言を繰り返す彼の声が、薄暗い部屋に響いている。
「おい、召喚主。この世界の人間は水の大切さを本当に理解していると思うか?」
私は彼の問いかけに少し考え込み、ため息をつきながら答えた。
「理解はしていると思うけど、貴重だとは思ってないかも。」
イモケンピの赤い瞳がじっと私を見据えている。
「水はただの資源ではない。命そのものだ。この宇宙に水が存在すること自体が奇跡に近い。それを人間は気づいていない。」
彼の言葉に答えようとしたが、声が出なかった。トラプトニアンが水を求めて地球にやってきた理由が、今になって胸に重く響いてくる。
その日の午後、会議が開かれた。司令部の重鎮たちが集まる中、ひと際目立つ人物が一人。新興宗教団体「神の手」の教祖だった。
彼の名は、ユリウス・カイン (Julius Cain)。素性が知れない、預言者とも言われる謎に包まれたカリスマ的リーダー。魅惑的で巧妙な言葉遣いで、多くの人々を熱狂的に信仰させる力を持つ。
平和を望むと公言しながらも、裏切り者や悪人には一切の容赦をしない。教祖を支える幹部たちは「指」と呼ばれ、それぞれが異なる役割を担いながら、各地で影響を及ぼしているようだ。
「神の手」は、トラプトニアンとの和平を訴える団体として、市民の支持を急速に集めていた。戦争で疲弊した人々は神にもすがる思いで、その教えに希望を見出していた。
そこで、JUDC(日本統合防衛司令部)は、この新興宗教集団を取り込み、人類とトラプトニアンの間で信頼を回復しようと試みたのだ。
「神の手」は協力を快諾した。
会議が終わり、部屋を出た私に、教祖ユリウス・カインが歩み寄ってきた。
柔らかな微笑みを浮かべ、まるで全てを見透かしているような目で問いかける。
「その人は付き添い人ですか?」
驚いて彼の視線を追った。そこには確かにイモケンピの影が立っていた。
「見えるのですか?」
私は思わず尋ねた。教祖は静かに頷き、落ち着いた声で答えた。
「ええ、そういう血筋なもので。」
そう言い残すと、教祖はゆったりとした足取りで去っていった。
教祖の後ろ姿を見つめながら、私は言葉を失っていた。イモケンピを「付き添い人」と呼ぶその不思議な確信――。
「いったい何者だ?」