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第38話 魔女の戦場

翌朝、私たちはレイナの基地でヴァルハラ隊と合流した。

彦作はプロペラ機の整備と待機のため基地に残り、私たち地上部隊は目的地に向けて移動を開始した。


昼前に山中へ到着すると、部隊は周囲の地形を入念に調査し、敵の進行ルートを予測。中腹にある複数のポイントに散開して待機した。




夜が訪れ、満月が山の谷間を明るく照らしていた。ナイトスコープなしでも周囲の様子を見渡せるほどだ。


「月が雲に隠れたらどうする?」


私が何気なく尋ねると、レイナは冷静に答えた。


「月に雲がかかることはない。」


その言葉にイモケンピがニヤリと笑う。


「魔女は自然を操れるからな。」


その一言が、私たちの緊張を少しだけ和らげた。




夜が更けると、偵察に出ていた兵士から無線が入る。


「こちらウィッチアイ(WITCH EYE)。敵部隊を発見。距離800。」


「こちらコーヴン(COVEN)。了解。」


レイナが応答すると、即座に彦作に指示を送った。


「ウィッチブレード(WITCH BLADE)、聞こえるか。」


プロペラ機の中から彦作が応答する。


「こちらウィッチブレード、聞こえる。」


「作戦開始。」


「ウィッチブレード、了解」彦作はプロペラ機のエンジンを始動させ、低空飛行で作戦空域へ向かった。


「来るぞ。」


レイナの一言で緊張が走った。誰も敵に気づいていないが、レイナだけは敵の動きを感じていた。


「目標を目視で確認。小隊を散開させ、左右と中央に分かれて進行中。」


兵士から連絡が入った。 私は音を立てないように岩の陰で息を潜める。


「攻撃を開始する。フリーダ、右翼小隊の敵兵を狙え。ヨハン、左翼小隊の敵兵を狙え。」


レイナは冷静な声で指示を出した。


「了解。」


フリーダとヨハンが短く応じた後、わずかな間を置いて、レイナが静かに指示を続けた。


「フリーダ、撃て。」


対物ライフルの銃声が山間に響き渡る。続けて、レイナが命じる。


「ヨハン、撃て。」


鋭い銃声が再び響き、一瞬、敵の動きが止まった。だが、その静寂は長くは続かない。


「敵の攻撃が来るぞ!フリーダ、ヨハンは狙撃を継続。他のものは銃撃しつつ左へ移動。」


レイナの指示が飛ぶ中、敵兵たちは応戦を開始。激しい銃撃戦が始まった。


対物ライフルの重い銃声が連続して響き渡る。しかし、敵は狙撃手の位置に気づき、フリーダとヨハンを狙う。


「フリーダ、ヨハン、第2ポイントへ移動」


その指示と同時に、霧が狙撃手の位置を覆う。


「了解、移動する。」


「霧まで操るのか……」


私は驚きつつも、それが魔女であるレイナの力であることを改めて実感した。


続けてレイナの指示が飛ぶ。


「ベルトルド、対人地雷を設置。各班、攻撃しつつ100メートル後退。敵をキルゾーンへ誘導する。」


キルゾーンは、木が少なく開けた地帯に設定されていた。そこには小さな川が流れ、遮蔽物が少ないため敵兵の動きが上空からも容易に確認できる。しかし、それは同時に味方も身をさらす危険地帯でもあった。


敵兵たちは徐々にキルゾーンへと引き込まれていく。迫撃の火線が途切れることなく続き、ついに敵部隊はその危険な地帯の中央に集結し始めた。


「ここで、敵を釘付けにする。一斉掃射!」


レイナの指示が飛ぶ。地上部隊が一斉に火器を撃ち込み、敵の動きをさらに制限した。


「ウィッチブレード、聞こえるか。」


レイナが彦作に指示を出す。


「こちらウィッチブレード、聞こえる。低空でキルゾーンの線上に侵入した。目標を知らせよ。」


「了解。」


「ベルトルド、敵を引き付けて地雷を爆破。」


「了解。」


ベルトルドは敵部隊が地雷に近づいてくるのを見計らい起爆装置のスイッチを押した。


轟音が響き渡り、満月に照らされた戦場に爆炎が立ち上る。


「見えたぜ。ウィッチフレア(WITCH FLARE)を確認。攻撃を開始する。」


ドドドドドッ——重厚な銃声が山間に響き渡る。T-28が姿を現し、機銃掃射を開始。低く唸るプロペラ音が静寂を切り裂き、弾丸の嵐が敵陣を容赦なく襲う。


「旋回する!」彦作が操縦桿を引き、再び攻撃態勢に入までの間、地上部隊もライフルで一斉射撃を開始し、残っていた地雷を爆破する。


上空からの機銃掃射と地上からの連携攻撃が見事に噛み合い、敵は一瞬のうちに陣形を崩され、なすすべもなく壊滅していった。


恐ろしいものを目の当たりにした。もしこれが逆の立場だったら、たまったものではない。


「これが……魔女の力なのか。」


その言葉が自然と口から漏れていた。


「作戦完了。発砲するな。」レイナが短く指示を出す。


彦作に無線が飛ぶ。


「ウィッチブレード、いい腕だ。帰還しろ。」


「了解。帰還する。先に一杯やって待ってるぜ。」


彦作の軽い声に、私は思わず苦笑した。




作戦が終了すると、地上部隊は敵兵の生死を確認し、武器や装備、そして敵兵の破片までも回収していった。


その間、魔女は戦地に祈りを捧げていた。近くにいたヴァルハラ隊の兵士が教えてくれた。


「これは、戦闘で汚された大地を癒やし、再生させるための祈りだ。」


祈りが終わるころには撤収の準備も整い、1時間後、私たちは基地へ向けて帰路についた。


山道を下りながら、私はふと振り返り、満月に照らされた戦場を見た。恐ろしいまでに完璧な戦術だったが、その光景はあまりに冷徹で、どこか恐怖すら感じさせるものだった。


背後には静寂が戻り、まるで戦闘の痕跡を隠すように霧が立ち込め始めていた。

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