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第30話 使役

私は資料を閉じて腕を組んだ。


「彼らが味方になれば、状況を変えられるかもしれない。トラプトニアンにとって便利な装置だった存在が反旗を翻せば、混乱を招ける。」


「混乱はいいぞ。実に面白い。」


イモケンピは悪戯っぽく笑った。


「笑い事じゃない。」


私は彼の軽口を遮るように言った。


「彼らの動向が、この戦争の分岐点になるかもしれない。」


イモケンピは資料の束を指先で軽く叩きながら、わざとらしくため息をつく。


「で、召喚主よ。お前はどうするつもりだ?ただ情報を集めて眺めているだけか?」


その問いに、私は言葉を失った。どれだけ情報を集めたところで、それを具体的に活用する術がなければ意味がないということは、自分でも十分に分かっている。それでも、次の一歩をどう踏み出せばいいのかが見えなかった。


「考えがまとまらないようだな。」


イモケンピは肩をすくめて笑う。


「だが、時間は待ってくれないぞ。お前の小さな脳みそが決断するまで間に、この世界はどんどん壊れていく。」


「そんな言い方、しないで。」


私は反射的に言い返したが、その声には力がなかった。


「召喚主。」


イモケンピは立ち上がり、私の背後を歩き回りながら、静かに語りかけた。


「この状況で重要なのは、誰が『行動』を起こすかだ。ただ考えるだけでは、何も始まらない。」


その言葉は、鋭く胸に突き刺さるようだった。私が次に何をするべきか、それを決めるのは、私自身なのだということを改めて思い知らされた。


「計画を作らないと。」


自分自身に言い聞かせるように、小さな声で呟いた。


イモケンピは興味深げに眉を上げる。


「ほう、ようやく動く気になったか。」


その言葉に返事をしようとした矢先、彼が口を開いた。


「いや、待てよ。お前が計画を考える必要なんてないだろう。私はお前に使役されている。つまり、計画を作るのは私の役目だ。」


「どういう意味?」


私は思わず首をかしげた。


イモケンピは机の隅に腰掛けながら答える。


「お前は召喚主、私は使役される悪魔だ。だから、お前がやるべきことは、私が示した計画を実行することだけだ。」


「私が実行する?」


私は少し呆れたように言った。


「そうだ。」


イモケンピは悪戯っぽく笑みを浮かべる。


「お前はただ、私が示した計画に従い、その計画を実行するための意志を持つだけでいい。召喚主は私を使役し、私はその力を振るう。ただ、それだけのことだ。」


「つまり、あなたがこの戦争をどう動かすか、すべて任せろって言いたいの?」


私は少し挑戦的に尋ねた。


「いや、そんなに単純な話ではない。」


イモケンピは片手を挙げて制するような仕草をしながら続けた。


「私は道を示すが、その選択をするのはお前自身だ。お前が何を望み、何を手に入れたいのか。その決断がすべてだ。」


「いいわ。」


私は覚悟を込めて答えた。


すると、イモケンピは満足げに赤い瞳を細め、静かに言葉を続けた。


「この計画を完璧にするには、もっと仲間が必要だ。仲間を集めよ。」

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