私は資料を閉じて腕を組んだ。
「彼らが味方になれば、状況を変えられるかもしれない。トラプトニアンにとって便利な装置だった存在が反旗を翻せば、混乱を招ける。」
「混乱はいいぞ。実に面白い。」
イモケンピは悪戯っぽく笑った。
「笑い事じゃない。」
私は彼の軽口を遮るように言った。
「彼らの動向が、この戦争の分岐点になるかもしれない。」
イモケンピは資料の束を指先で軽く叩きながら、わざとらしくため息をつく。
「で、召喚主よ。お前はどうするつもりだ?ただ情報を集めて眺めているだけか?」
その問いに、私は言葉を失った。どれだけ情報を集めたところで、それを具体的に活用する術がなければ意味がないということは、自分でも十分に分かっている。それでも、次の一歩をどう踏み出せばいいのかが見えなかった。
「考えがまとまらないようだな。」
イモケンピは肩をすくめて笑う。
「だが、時間は待ってくれないぞ。お前の小さな脳みそが決断するまで間に、この世界はどんどん壊れていく。」
「そんな言い方、しないで。」
私は反射的に言い返したが、その声には力がなかった。
「召喚主。」
イモケンピは立ち上がり、私の背後を歩き回りながら、静かに語りかけた。
「この状況で重要なのは、誰が『行動』を起こすかだ。ただ考えるだけでは、何も始まらない。」
その言葉は、鋭く胸に突き刺さるようだった。私が次に何をするべきか、それを決めるのは、私自身なのだということを改めて思い知らされた。
「計画を作らないと。」
自分自身に言い聞かせるように、小さな声で呟いた。
イモケンピは興味深げに眉を上げる。
「ほう、ようやく動く気になったか。」
その言葉に返事をしようとした矢先、彼が口を開いた。
「いや、待てよ。お前が計画を考える必要なんてないだろう。私はお前に使役されている。つまり、計画を作るのは私の役目だ。」
「どういう意味?」
私は思わず首をかしげた。
イモケンピは机の隅に腰掛けながら答える。
「お前は召喚主、私は使役される悪魔だ。だから、お前がやるべきことは、私が示した計画を実行することだけだ。」
「私が実行する?」
私は少し呆れたように言った。
「そうだ。」
イモケンピは悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「お前はただ、私が示した計画に従い、その計画を実行するための意志を持つだけでいい。召喚主は私を使役し、私はその力を振るう。ただ、それだけのことだ。」
「つまり、あなたがこの戦争をどう動かすか、すべて任せろって言いたいの?」
私は少し挑戦的に尋ねた。
「いや、そんなに単純な話ではない。」
イモケンピは片手を挙げて制するような仕草をしながら続けた。
「私は道を示すが、その選択をするのはお前自身だ。お前が何を望み、何を手に入れたいのか。その決断がすべてだ。」
「いいわ。」
私は覚悟を込めて答えた。
すると、イモケンピは満足げに赤い瞳を細め、静かに言葉を続けた。
「この計画を完璧にするには、もっと仲間が必要だ。仲間を集めよ。」