イモケンピとの契約の後も、私の日常は変わらず続いていた。戦争が終わる兆しも見えないまま、司令部には今日も膨大なデータが送られてくる。戦況は泥沼化し、戦争を終わらせるための手段は霞をつかむように曖昧だった。
その晩、イモケンピが食料をストックしている棚を漁りながら、軽い調子で私に声をかけてきた。
「おい、召喚主よ。今日もまた、役に立たない情報ばかりだったようだな。」
彼の声には、いつものように皮肉がたっぷりと混ざっている。私はその言葉に思わず肩をすくめながら答えた。
「……どうして分かるの?」
私はため息混じりに答えた。
「お前のその表情でわかる。」
イモケンピは愉快そうに言いながら、レトルトカレーをスプーンですくい始めた。
「それより、これは何だ?」
スプーンをかざしながら彼は興味津々に尋ねてきた。
「お前たち人間の食文化は、時々驚くほど興味深い。こんな奇妙な形で食事を保存するとはな。」
「それはレトルト食品。最高の保存食だよ。」
私は椅子に深く腰を下ろし、今日届いた新しい報告書を机に広げた。
イモケンピはスプーンを口に運びながら「ふむ」と満足げにうなずく。
「なるほど、複雑で悪くない味だ。地獄ではまずお目にかかれない代物だな。お前たちのこういうところだけは感心する。」
「そう?」
彼の言葉に苦笑しながら、私は報告書を読み続ける。
「それで、今日はどんな話が書いてあるんだ?」
イモケンピがカレーを片手に椅子を引き寄せ、私の隣に腰を下ろした。
私は報告書の一節を指でなぞりながら答えた。
「地球統合諜報機関の特務部隊が送ってきたデータ。北極圏でトラプトニアンの新型兵器が確認されたらしい。全長25メートルの巨大な機械らしいけど、詳細はまだ不明。」
「ほう、それは見てみたいものだな。」
イモケンピの声には、皮肉というより純粋な好奇心が含まれているように聞こえた。
「しかし、なぜエイリアンにバレずに通信ができるんだ?」
「量子通信と分散型ネットワークで通信を保護しているらしいの。」
私は報告書を閉じながら説明した。
「データはロンドンの地下施設に集約されて、そこから各組織に転送されているみたい。」
イモケンピは手に持ったレトルトカレーのパックをスプーンですくい、器用に食べながら頷いている。
「ふむ、いい情報はないのか?」
彼はカレーを一口飲み込み、興味深そうに続けた。
私は苦笑いを浮かべながら、椅子にもたれた。
「どの情報も戦局を覆す決定打にはなってない。ただ……」
一瞬言葉を切り、報告書のページを指でトントンと叩いた。
「レプリシアンに関する情報が少し進展している。」
レプリシアン――それはトラプトニアンが生み出した複製人間であり、地球を管理する「代理人」として利用されている存在だ。感情や自由意志は制限され、純粋な命令実行機械のように設計されている。だが最近、彼らの一部に異変が起きているとの情報が入った。
自由を求めるレプリシアンが現れ、トラプトニアンの支配に抗う動きがあるというのだ。
「複製人間か……」
イモケンピが机に腰掛け、楽しそうに私を見た。