リセノヴァの声は低くホールに響いた。
「彼らは王を殺害した。そしてその愚かな行為が何を意味するのか、いまだに理解すらしていない。」
リセノヴァの視線は再び地球のホログラムに向けられる。その眼差しには軽蔑が宿り、地球をまるでくだらない玩具を見るかのように睨みつけた。
「彼らの無知と自己中心的な行動が、この宇宙の秩序を乱している。そんな生き物を、私たちがいつまで甘やかす必要があるというのだ?」
彼はレムトラを見据え、さらに続けた。
「宇宙に調和をもたらすには、我々の力を示す必要がある。その力を行使できる者こそ、真の指導者だ。」
その言葉に、評議会の中立派のカライナが静かに口を開いた。
「力で示す調和は一時的なものに過ぎない。王が目指したのはそうではなかったはずです。」
リセノヴァは、冷静さを保ちながら口を開いた。
「我々は、この星の水を技術提供の代償として得る契約を交わしたはずだった。」
リセノヴァの声は冷徹で、ホール全体に響き渡る。その言葉の端々には抑えきれない怒りと失望が滲んでいた。
「だが、どうだ?地球人共はその技術を手に入れながら、約束の水を提供しなかった。それだけではない。」
彼の声がわずかに低くなり、ホールの空気がさらに重苦しいものへと変わる。
「彼らは王をも殺害したのだ。我々の未来を託した存在を、愚かで卑劣な手段で奪った。それでもまだ、地球人の選択を待つというのか?」
リセノヴァの視線が評議会のメンバー一人一人を刺すように見つめる。
レムトラは一瞬瞼を閉じ、重みのある言葉を静かに紡ぎ出した。
「強硬派は、王の殺害の報復として、地球人の30%を殺戮した。その事実を我々は忘れてはならない。だが、彼らもまた報復を考えているかもしれない。もし報復が報復を呼べば、殺戮の連鎖は終わらない。それは、王が目指した調和とは程遠いものだ。」
レムトラの声は穏やかでありながら、空間を支配するような力を持っていた。評議会の全員がその言葉に耳を傾ける。彼の視線がホールを見渡し、再び続けた。
「我々の使命は、復讐の連鎖を断ち切ることではないか。地球人の選択が愚かであったとしても、その先に彼らがどのような未来を選ぶかを見届ける責任があるのではないか。今こそ我々は、王の遺志を真に理解し、調和のために忍耐を示すべき時だ。」
その言葉に、ホールを包む緊張感が一気に沈黙へと変わった。長い静寂の後、議長が重々しい声で口を開いた。
「評議会は決議する。」
その声がホールの隅々まで響き渡る。
・地球人の選択を見守る
・武力行使は最終手段とし、穏健派の交渉を優先する
リセノヴァは静かに笑みを浮かべた。その笑みには屈辱の中にも、何か企みが潜んでいるようだった。
評議が終わり、静まり返ったホールにただ一人残っていたレムトラ。その背中に、控えめな足音が近づく。
「冷静な議論だったな、レムトラ。」
リセノヴァの声は驚くほど柔らかかった。しかし、その穏やかさの奥には、鋭い刃のような冷ややかさが潜んでいた。
レムトラは振り返り、静かに視線を合わせる。
「議論ではない。私はただ、真実を語っただけだ。」
その声は冷静で揺るぎなく、ホールに残る空気にさらに深い静けさをもたらした。
リセノヴァは小さく笑い、地球のホログラムを見上げた。
「真実か。だが、真実とは常に固定されたものではない。状況や力によっていくらでも形を変えるものだよ。」
レムトラは目を細め、冷静に言葉を返した。
「野心に駆られるな、リセノヴァ。王が望んだのは支配ではなく、調和だ。それを君が誰よりも理解しているはずだ。」
リセノヴァは応えず、ホールを後にした。その足取りはゆったりとしていたが、背中からは抑えきれない怒りと冷酷な野望が溢れ出していた。
レムトラは再び地球のホログラムを見つめた。
「王よ……」
レムトラは静かに呟いた。
「我々の選択は、正しいのだろうか……。」
その問いかけに答えるものはなく、ただ星々を模した光がホールを静かに照らし続けていた。