石船――それは、トラプトニアン母星を再生するまでの長き旅路に備え、未来を模索するための移動型居住船だった。
その中心に位置する広大な評議会ホールには、穏健派、強硬派、中立派といった立場を持つ評議員たちが集い、母星再生へ至る道筋を巡って熱い議論が交わされている。
ホールは荘厳で神秘的な空気に満ちていた。高い天井には星々が輝き、空間を淡く照らしている。中央には地球のホログラムが静かに回転し、その青い輝きはかつての繁栄と未熟な文明の脆さを同時に思い起こさせた。
カリドゥスは穏健派を代表するアドバイザーとして席についていた。青白い肌がホログラムの光を反射し、滑らかに輝いている。その冷静な表情には、知性と内に秘めた情熱が垣間見えた。
「地球人が愚かであることは、もはや議論の余地などない。」
強硬派の代表リセノヴァが冷静な声で切り出した。評議会の大広間に冷たい緊張が走る。彼は椅子に深く身を預け、顔には一切の感情を浮かべないが、言葉は氷の刃のように鋭かった。
「彼らは自らの星を破壊し、互いに血を流すことにしか知恵を使わない。こんな下等な生き物に、この宇宙の調和を語る資格などない。」
地球のホログラムを指差しながら、彼は続けた。
「先代の王が命を懸けたのは、この愚かな生き物のためだったのか?いや、違う。王が追い求めたのは宇宙の調和であり、それを裏切ったのが地球人だ。彼らの愚行が、我々の王を奪ったのだ。」
評議会のメンバーがざわつく中、リセノヴァはゆっくりと立ち上がり、重々しい口調で言葉を紡いだ。
「我々は行動を起こさなければならない。地球を支配し、その資源を母星再建のために使う。王の意志を継ぎ、私が新たな王としてこの宇宙に真の調和をもたらす。それこそが、先代の王が目指した未来だ。」
その声は静かでありながら、強い意志が込められていた。評議会の視線がリセノヴァに集中する中、彼の存在は圧倒的だった。
リセノヴァは、その冷徹な計算と揺るぎない意志によって、評議会の強硬派から次期王として推挙されていた。彼の野心と理想は、ただの権力欲に留まらず、宇宙全体の秩序を再構築するという壮大な目標を掲げていた。そのカリスマ性と冷静な指導力は、新時代を切り拓く象徴として際立たせていた。
その言葉に応じ、穏健派の代表レムトラが静かに立ち上がった。その姿はどこまでも冷静で、柔らかな眼差しと落ち着いた声がホールに広がる緊張感を穏やかにほどいていく。
「リセノヴァ、忘れてはならない。王が望んだのは支配ではなく、真の調和だ。」
レムトラは地球のホログラムを見つめながら続けた。
「確かに、人類は愚かだ。自らの星を壊し、互いに争い続けている。その愚行を否定することはできない。それでも、愚かさの中に成長の芽があることを見逃してはならない。」
リセノヴァが椅子に背を預けたまま、冷たい笑みを浮かべる。その目には軽蔑の色が宿り、声には鋭い棘が混じる。
「成長?愚か者たちがこれまで何を学んだというのだ?地球人の歴史は、何千年もの間、破壊と対立だけだ。これからも多くの血を流すことになる。」
レムトラは一瞬だけ考え込み、穏やかに答えた。
「リセノヴァ、彼らが学ぶには確かに時間が必要だ。それはもどかしいほどに長い道のりかもしれない。しかし、私たちが彼らの選択を無視し、力で支配しようとすればどうなるか考えてみてくれ。それは、ただ新たな混乱と破壊を招くだけだ。」
リセノヴァは嘲るような笑みを浮かべた。
「混乱を招いているのは、他ならぬ下等な地球人共だ。」