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第24話 どうするべきか、どうするべきでないか

春の終わり、小さな山間の町には初夏の気配が漂い始めていた。庭先ではツツジが鮮やかな彩りを添え、木漏れ日がその花びらを優しく照らしている。遠くの山々は新緑に染まり、風が森を抜けるたびに葉擦れの音が静かに響く。


暖かい陽射しが山々をやわらかく包み込み、町全体に優しい光が降り注いでいる。だが、その穏やかな情景が、世界の混沌を一層際立たせていた。


この混沌とした状況により、新興宗教が急速に勢力を広げている。


「神の手」という名の宗教団体がその代表格だった。彼らはトラプトニアンとの平和的共存を訴えながらも、その方法は過激だった。人類の強硬派に対して容赦のない攻撃を行い、混乱を煽る行動は社会をさらに分断していた。


「神の手……いかにもって感じの名前。ありがち。」私は呟く。


「暴力的に平和を掲げるうとは、人間らしい。」


イモケンピは呆れたように肩をすくめる。


「そんなものが存在する限り、この星に希望などありはしない。」


「そうだよね。」私は自嘲気味に笑った。


いくらトラプトニアンと話し合っても解決には至らない。戦いになれば人類が負け、以前の平穏な暮らしを取り戻すことなどできないだろう。人類の欲望と愚かさが招いた当然の結果だった。


「結局、負けるのは決まってる。あとは死ぬのを待つだけ。どう死ぬかを決めるだけかー。」


その言葉に、イモケンピは急に真剣な顔つきになった。


「それでもお前は考えているだろう。どうするべきか、どうするべきでないかを。」


彼は赤い瞳で私をじっと見つめる。


「その迷いこそが、お前を人間たらしめている。だが、私の力を使えば、この状況を変えることができる。」


「魂を代償に?」私は冷静を装いながら尋ねた。


「そうだ。」


イモケンピは静かに頷いた。


「この戦争を終わらせる力を与えよう。選ぶのはお前だ。お前が守りたいものが本当にあるのならな。」


私は深く息を吐き、目を閉じた。この愚かな世界を救う価値が果たしてあるのか。心の中で答えを出そうとするたび、ためらいが湧き上がる。それでも、私はまだ希望を捨てきれなかった。

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