東雲彦作が司令部に配属されてから数日が経過した。
破天荒で、いつも自信たっぷりの態度。しかしその裏に隠された懐疑的な目が、政府や上層部に対する不信を物語っている。彼は孤独を選びながらも、どこか信頼できる仲間を求めているようだった。そんな彼が、今日は特に疲れているように見えた。
私の机の前で、彼は頬杖をついてこちらを見ていた。
「ボス、俺に聞きたいことがあるんじゃないですか?」
不意打ちのような言葉だった。私は一瞬戸惑ったが、イモケンピの低い笑い声が背後で響く。
「ほら、こいつ、面白いこと言ってるぞ。遠慮せず聞いてやれ。」
私は咳払いをして、意識的に落ち着きを装った。
「超能力の話?あの、視野が狭くなるってやつ?」
東雲は微かに笑みを浮かべながら、ポケットから何かを取り出し、机の上にそっと置いた。それは一発の弾丸だった。
「その疑いを晴らします。これを俺にめがけて思いっきり投げてください。」
「この距離で?」
私は訝しげにそれを手に取る。彼の視線にはどこか挑発的なものがあった。試すような目。それが何故か気に障り、私は言われた通りに弾丸を彦作の顔面めがけて投げた。
投げた瞬間、彦作の指が弾丸を掴んでいた。反射神経というには速すぎる。
「どういうこと?」私は驚きの声を抑えられなかった。
「集中力が高まると、周りが消えて対象物だけが見える。そして、相手の次の動きが読めるようになる。」
「読める?」
「何ていうか、見えるんだよ。少し先が。あの時もそうだった。」
「あの時?」
彦作は視線を少しだけ逸らした。初めて彼がほんのわずかに気弱な表情を見せた気がした。だが、すぐにいつもの皮肉めいた笑みが戻る。
「総理官邸の防衛作戦の時だ。仲間を救えなかったが、敵の巨大兵器の動きを読んで、相手の弱点に弾を撃ち込むのは簡単だったよ。」
その言葉には、彼の心に刻まれた深い傷がにじんでいた。
報告書では、彦作はたくさんの部隊をたらい回しにされ、どの部隊でも新人扱いされた彦作は常に浮いた存在だった。
「ボス、教えてくれ。」
彼が不意に言った。その声はこれまでに聞いたことのない、真剣で孤独な響きを帯びていた。
「教えるって、何を?」
「どうすれば信じられる仲間が作れるんだ?」
私は言葉を失った。戦場で孤独を選び続けてきた男が、こんな言葉を口にするとは思わなかったからだ。彼の瞳には、これまで私が見てきたどんな表情とも違う、純粋な渇望が宿っていた。
イモケンピが私の耳元で囁く。
「いいじゃないか。こいつを仲間にしてやれ。心に空っぽな場所を持つ奴は、お前にとっても価値がある。」
私は言葉を選びながら口を開いた。
「それはあなた次第です。」
彦作は目を細め、深い息を吐き出した。
「……難しいな。」
「簡単です。他人を理解するところから始めてください。」私は静かにそう言った。
彦作はしばらく考え込むように黙っていたが、ふっと力を抜くように無造作に笑った。
「なら、ボスが俺を理解してくれ。そうすりゃ、俺も少しはやりやすい。」
そう言うと、照れ隠しのように資料をまとめる作業に戻った。
その夜、自宅で一息つき、静けさに包まれた時間を過ごしていたとき、イモケンピが隣でぽつりと呟いた。
「お前、いいボスになったな。」
「何を言ってるの?」
「あいつはお前に付いていくよ。俺が保証する。あいつの力、試してみるといい。」
イモケンピの赤い瞳が揺らぎ、どこか楽しげだった。彦作との間に生まれた新たな絆が、未来にどう影響するかは、まだ分からない。
だが、私は彼の孤独に触れた時、確信した。彼もまた、私たちの戦いに欠かせない存在だと。