イモケンピはジャンクフードが好きだ。それはもう、悪魔らしさの欠片もないほどに。
ある日、「ピザというものを食べてみたい」と言い出した。
だが、そんな贅沢品が今の世界にあるわけもない。私は仕方なく、パンにジャムを塗り、「これがピザだ」と言い張って差し出した。
彼はしばしそれをじっと見つめた後、不満げに眉をひそめながら口に運んだ。
「……これがピザだと?」
彼はため息交じりに言いながらも、律儀にすべて食べ終えた。そして、空になった皿をじっと見つめ、少しばかり物足りなさげに呟いた。
「本物のピザとは随分違う気がする。」
今この瞬間にも、人類は滅亡に向かっている。食糧不足が当たり前で、毎日命がけで生き延びる現実の中で、熱々のピザを口にできる人などいるのだろうか。
それでも、イモケンピはこの荒廃した世界をどこか楽しんでいるように見えた。
彼との会話はいつも不思議な感覚を伴った。私は、悪魔という存在を、ただ人を堕落させるためだけに存在していると考えていたが、イモケンピは違った。
彼と共同生活をする中で、私は悪魔のことを学んだ。
イモケンピは人間の心の深いところまで知っていた。
「人間の心は、深い闇を秘めている。それが我々の力の源だ。」
彼は、缶詰を開けながらぽつりと言った。その様子は悪魔というより哲学者のように見えた。
「それで、その力をどう使うわけ?」私は、半分冗談めかして尋ねた。
イモケンピは缶詰の中身を一口頬張り、赤い瞳を細めながら答える。
「言葉だ。言葉を使えば、人間の心を容易に操れる。」
私はその言葉に背筋が寒くなるのを感じた。同時に、彼が人間の「深い闇」とやらをどれほど理解しているのか興味も湧いた。
「ところで、私以外の人間にはあなたの姿は見えていないみたいだけど、どうして?」
彼はゆっくりと、まるで当たり前の事実を語るかのように答えた。
「人間は自分に理解できるものだけを見ようとする。私のような存在は、その範囲を超えているのだ。」
彼の言葉には妙な説得力があった。悪魔の姿は私以外の人間には見えていない。人間の知覚が制限されているかららしい。
「まあ、私にとってはその方が都合がいいがな。」
さらに驚いたことに、彼は身近な人々に「取り憑く」ことすらできるというのだ。
「お前が触れる範囲にいる者ならば、その心の奥に入り込むのは造作もないことだ。お前が望むなら、誰でも思いのままに操ってやるが?」
サバの缶詰を食べながら彼は軽く笑った。
その言葉に、私は戦慄を覚えた。だが同時に、心のどこかでその力を使う誘惑が芽生えていることも否定できなかった。