「ところで、キャトルミューティレーションや家畜の奇妙な死体事件って、あなたの仕業?」
私はカリドゥスをじっと見つめながら尋ねた。
「私がそんなことするわけないだろ!」
カリドゥスは慌てたように声を上げた。その仕草は、意外にも人間臭かった。
「じゃあ、誰がやってるの?」
「それは我々ではありません。他の惑星から来た者たちの仕業でしょう。」
カリドゥスの表情が急に真剣なものへと変わった。「地球の言葉で言えば、グリーゼかケプラーあたりの星から来た種族だと思います。この星は豊かな生命で満ちている。多くの異星人にとって、非常に興味深い実験場なんです。」
私の心が軽く跳ねた。「他の惑星?」
カリドゥスは少し考え込んでから、続けた。
「あくまで私の推測ですが、キャトルミューティレーションを行っているのはグリシュヴァ星人。人体に金属を埋め込んでいるのはスラドリア星人。ミステリーサークルはフリルプ星人。そして拉致を行っているのはオルファグリ星人……といったところでしょうか。」
「そんなに?」
私は驚きのあまり、声を張り上げてしまった。
カリドゥスは視線を私に戻し、静かに頷いた。
「その通り。この星は、宇宙全体から注目を集めています。我々がここにいる限り、他の者たちは直接干渉することはできないでしょう。しかし、もし我々がいなくなれば、状況は一変するかもしれません。」
「あなたたちは地球を守るためにいるの?」
私の声には皮肉が混じっていた。
カリドゥスは感情を一切見せずに答えた。
「守るというより、管理していると言った方が正確です。だが、我々がいなくなれば、この星はすぐに別の勢力の手に落ちるでしょう。」
その場に一瞬、重い沈黙が流れた。イモケンピが耳元で低く嘲笑を漏らす。
「守護者気取りか?」
私は思わずイモケンピを睨んだが、カリドゥスは気にする様子もなく続けた。
「生命の源である水は、宇宙全体でも非常に貴重な資源です。それはどの星の生命体も知っています。もし誰かがその資源を強奪しようとすれば、瞬く間に資源の取り合いの争いが始まるでしょう。その結果、この星は死の星となる。」
カリドゥスの声には、冷静さの裏に潜む切迫感が滲んでいた。
「皆、争いは避けたいと思っています。だからこそ、我々がここにいることが重要なのです。我々が地球にいる限り、他の勢力は手を出しにくい。」
カリドゥスの冷たい表情は、どこか遠い場所を見つめているようだった。
「私は母星を回復させる研究をしています。我々がしていることは科学的な探究心による行動です。地球の資源や生物が母星の環境でどう適応するかを知ることは、私たちの復興に必要なデータです。無意味な行為ではありません。」
その言葉に、私はこの地球が抱える複雑な状況を改めて思い知らされた。
カリドゥスは柔らかな笑みを浮かべると、続けた。
「私の母星には空を舞う生物がいません。太古の昔には生息していたらしいのですが、今はもう失われてしまった。だから、トラプトニアンは地球の空を舞う生物に驚いています。」
彼の瞳が輝く。
「私はいつか、母星の空に鳥を放ちたい。それが私の夢です。」
「ふーん。」
私はそっけなく返したが、彼の情熱に少しだけ心を動かされたのを感じていた。