翌日も、私はイモケンピと共にカリドゥスの研究室に向かった。
道中、私は不安を隠せずに口を開いた。
「カリドゥスは本当に協力してくれるかな?」
「心配するな。」
イモケンピは平然とした口調で言った。
「あいつは純粋な男だ。私は心を読むのが得意だからな。」
「そう?でも、何かをたくらんでいる気がするんだけど。」
「協力関係なんだ。お互いにメリットがあるのは当然だろう。」
イモケンピはそう言ったが、その声には微妙な含みがあった。
やがて私たちはカリドゥスの研究室に到着した。
「カリドゥス、今日はプレゼントを持ってきました。」
「プレゼント?」彼は手を止め、こちらを振り返る。
「これです。」
私はバッグから小さなケースを取り出し、彼に差し出した。
カリドゥスは目を見開き、息をのんだ。
「これは……!」
「ヤマネです。絶滅危惧種で天然記念物。この国の固有種ですよ。」
彼の目がさらに輝きを増した。
「美しい……」
カリドゥスはケースの中のヤマネを食い入るように見つめた後、感激したように笑った。
「素晴らしい!地球人の協力を得ることができたぞ。これで、この星の動物がさらに手に入りやすくなった。もっと、もっと持ってくるのだ、地球人よ!」
私は冷ややかな視線を彼に向ける。
「……心の声、漏れてますよ。」
カリドゥスはハッと我に返った。
「あ、すみません。動物のことになるとつい夢中になってしまって。」
イモケンピが耳元で囁いた。
「これがあいつの本性だ。動物のことしか頭にない。それがあいつの欲望というわけだ。」
私は、欲にもこんなに美しい形があるものだと感じながら、ヤマネに夢中になっているカリドゥスを静かに見つめていた。
「今朝、偶然見つけたんです。」
そう言いながら、私は朝の出来事を思い出していた。
早朝、庭の片隅でヤマネが走り抜けるのを見つけ、急いで近くにあった網を掴み、捕まえようと駆け寄った。
「そっちに行ったぞ!」
イモケンピが冷静に指示を飛ばす。その声に従って、私はヤマネを追い詰めようと網を振り回した。
「おりゃおりゃおりゃおりゃーーーー!」
全力で網を振り回す私と、それを面白そうに見守るイモケンピ。ヤマネは小さな体で懸命に庭を駆け回る。
時間はかかったが、なんとか捕獲に成功したのだった。
「素晴らしい!気に入りました!」
カリドゥスは目を輝かせながら声を上げ、手際よく研究の準備を始めた。
信頼関係とは、こうして築くものだ――そう思った。
―― 得るためには与えよ ――
この言葉は、ここへ来る途中でイモケンピが私に教えてくれたものだ。軽い冗談のように聞こえたその一言が、今になって妙に胸の奥に染み入ってくる。
イモケンピは一歩後ろで静かに笑みを浮かべている。その目は、全てを見透かしているかのようだった。