……これがおまえたちへの俺からの戒めだ。
老人の姿が消えたあと、狼狽える俺の頭の中で声が響いた。どこかしら面白がっているようでもあった。
“おまえに贈り物をしておいた。私の考えが正しければそれは有効に発動するだろう。なんと言ってもおまえはあの姫の声を聞くことが出来た、私の知る限りただ一人の男だからだ。
その意味がわかるか?
私の長い人生で唯一なのだぞ。
姫自身が望まなければその声を聞くことは叶わない。だからおまえは姫に選ばれたのだ。おそらく、失敗ばかりしている無能な私の後継者としてな。いずれその手に闇の剣が継承されることだろう。
愛する我が子の言うとおり、私は人の道を誤った。だが、姫に捧げたこの身を後悔していない。願いは叶わなかったが、まあ、仕方がない。
あとはおまえに託すのみ。世界の行く末をおまえの手に委ねよう”
そしてそれから二百年の時が経った。俺は死ななかった。老人が言った贈り物とは長い命のことだったらしい。不死ではない証拠に僅かずつ歳を取っているが、寿命が尽きるまで千年単位の時が必要だろう。
姫が俺を呼ぶ声が次第に強くなっている。しかしとりあえずまだ自分を保っている。腰に帯びた剣は銀の光を反射し、とりあえずまだ漆黒ではない。俺はあの老人と違って精一杯抵抗してやるつもりだ。
姫への抵抗の要と言うべき桜は世界にあと二本だけ。俺はその二本の桜を訪ね、種子を採り、増殖する計画を立てた。だがうまくいかない。やはり姫の城にあるオリジナルの木から採取した種子でないとダメらしい。
まあ、次の復活の日まであと百年あるから、もしかしたら何とかなるかもしれない。常に希望を持てと昔から言うじゃないか。
もしも俺が姫に負けて漆黒の剣を帯びるようになってしまったら、この物語をここまで読んでくれたおまえたちに、世界を救ってもらおう。邪悪な力に負けた俺を倒してくれ。その方法は俺にも分からないが、俺が語ってきた物語の中に手がかりがあるような気がする。
闇に囚われた俺は、立派な外観や輝かしい名声、よく回る舌でおまえたちを
伝説とは、苔むした古の、自分とは関わりのないお伽話ばかりではない。季節が巡り、また麗しい春がやって来た。桜の下で花見と洒落こむのもよいが、その下にはこの世界を我が物にと熱望している魔物が隠れている事実を肝に命じておけ。
新たな伝説は、今ここから今ここに存在している我々が紡ぐのだ。