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虐殺の愛を、きみへ。
虐殺の愛を、きみへ。
蒼井冴夜
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年01月23日
公開日
1.3万字
完結済
最果ての城の姫サーガ Episode 01

Saku-raの下には魔物が眠っているという。
その魔物は三百年周期で地上に這い出ようとするらしい。
眼光鋭い謎の老人に誘われるまま、俺は幸運にも魔物封じの現場に居合わせることとなった。
しかし何かおかしい。
その老人は、三千年もの永きに渡り、再び魔物がこの世界に現れないように戦い続けている英雄と判明したのだが…。

⭐︎⭐︎⭐︎

最果ての城の姫サーガ
Episode 00
「最果ての城の姫」
https://m.neopage.com/book/31749001422587800
Episode 03
「きみ歌うことなかれ、闇の旋律を きみ語ることなかれ、魔の戦慄を」
https://m.neopage.com/book/31745568722556500

第1話 古(いにしえ)の伝説

『伝説』→ 古より言い伝えられた逸話。お伽話。概ね作り話に過ぎないが、稀に事実に基づいたものもある。しかし……




 Saku-raの下には、魔物が眠っているという。


 Saku-raは奇妙な植物だ。ランガル国の他の樹木は一年を通じて花を咲かせているというのに、この木は、春の数日間、木を覆い尽くすほどの薄桃色の花をつけたかと思うと、すぐに散ってしまう。


 もともと我が国には自生していなかったが、古の伝説によると、ある異国の騎士が種子を持ち込み、それが我が国で根付いたと言われている。


 またその伝説ではこんな話も語られている。この木の下には魔物が眠っており、いつの日か満開を迎えた新月の夜に蘇るであろう……。


「その伝説には続きがあるぞ」


 定期巡回の途中で寄った村の酒場。三人で食事をしていたら、いきなり隣のテーブルの客が話しかけてきた。俺は口に運びかけたフォークを皿に戻し、そいつに目を向けた。


 歳の頃は六十をいくつか越えたところか。年季が入って何色か分からなくなったマントを羽織り、白髪混じりの長髪を後ろで束ねている。


「魔物は三百年周期で復活しようとするのだ」

「三百年じゃあ、別に俺たちが心配することねえな」


 仲間のケンが俺に眼くばせしてニヤッと笑った。明らかにこの老人を馬鹿にしている。


「その三百年目が今日だとしたら、どうだ」


 そう言いながら老人は笑った。しかしその目は少しも笑っていない。よくよく見れば老人は不思議な顔立ちをしている。この国の人間ではないようだ。


「世界にSakur-raが何本あるか知っているか? 無論、生きている個体でな 」

「百本ぐらいですか?」


 老人に興味が湧いてきた俺は、ケンが挑発的なことを言う前に口を挟んだ。


「この国の個体を含めて三本しかない」

「それはずいぶん少ないですね」

「ウム。そしてまた三百年が過ぎて……」


 老人の声が小さくなり、言葉の後半は聞き取れなかった。


「なぜ今日が、その伝説の魔物が蘇る三百年目だと分かるのですか?それに世界中で3本あるのに、なぜこの国のSaku-ra だと?」

「前回、魔物を封じてから今宵で三百年になり、さらに新月なのはこの国だけだからな」


 まるで自分が魔物を封じたみたいな言い方をするじゃないか。この爺さんボケてるのか?


 ケンともう一人の仲間に眼くばせし、老人の相手をするのをやめて酒場を出ることにした。勘定を払い、三人で席を立ったところで、再び老人が話しかけてきた。


「装備が物々しいが、君たちは城の兵士かね」

「そうです。最近、不審な事件が起こるので領地を巡回しているのです」


 少しためらったが、さっきから疑問に思っていたことを老人に問いかける。


「今宵が魔物の蘇る日だと仰いましたが、こんなところで酒を飲んでいてよいのですか」

「まだ時が満ちていないからな。だが、もう間もなく……」


 何か気配を感じたように老人の目が鋭くなった。


「よろしい。丁度良かった。君たちも来るかね」

「もしもお邪魔でなければお供いたします」


 老人が立ち上がったとき、変わった杖を持っていることに気付いた。地面から腰までの長さの木の杖。太い枝をそのまま杖にしたようで真っ直ぐではない。磨き抜かれた表面は樹皮のままで見たこともない文字が彫ってある。


 この杖で魔物と戦うのだろうか。そういえば老人はこの変な杖以外に武器を帯びていないようだ。


「どうした」

「いえ。その杖で古の魔物と戦われるのかと思ったもので」

「戦うだと? 誰が戦うと言った」

「は?で、でも先程は魔物を封じると……」


 意外なことを聞くという顔をされてしまい、混乱した。武器も無くどうやって魔物と対峙するつもりなのか、さっぱりわからない。


「ふん。まあよい。くだらん話は後だ。行くぞ」

「は、はい」


 とにかく行ってみよう。行けばこの見知らぬ男がただのボケた老人なのかそうでないのかわかる。



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