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第2話 正反対


 「初見さん、いらっしゃい」


 人が多いイメージがあったが、聞き専が多いようで反応をしてくれた。キリッとした目元が冷たい印象を与えたが、思ったよりフランクに接しているみたいだ。


 「思ったより見やすいな」


 ゆるっとコメントが流れていく。まだ昼間だと言うのにリスナーは眠たいようだった。夜職が多いのかもしれないと思いながら、初めてのコメントを打ち込んだ。


 <気になったんで来ちゃいました。


 どうせ流れるからいいだろうと、思った事をそのまま送信した。コメントに気づいたのか口元を緩めながら嬉しそうに微笑んだ。


 柔らかい雰囲気と甘ったるさが合わさり独特の空間を醸し出していく。笑うと優しさが全面に出てきて、皆の心をかっさらっていった。


 <かわいい

 <嬉しそうだね


 キャーキャー言われてる。アタフタと動揺してしまった自分に恥ずかしさを感じてしまう。


 その表情かおは反則だ──


 「そうだね、凄くテンション上がってるかな」


 <タミキくん、いつもより元気やね

 < いつもなら落ちかけなのに、珍しい

 <あたしも嬉しいよー


 さっきまでゆっくり流れていたコメントが急に滝のように流れていく。急な変化に驚きながら固まっていると、画面越しに見つめてくる彼がいた。


 別にこちらが見えている訳でもないのに、心臓が跳ねた。一瞬、瞳の奥が揺らいだ波のように潤んだように見えたが、次の瞬間には何事もないように元通り。


 「別人みたいだったよな、一瞬……」


 感情を振り回されている感覚から逃げるように、タバコに火を灯す。疲れと驚きと新鮮さがじんわり煙の1部になり、体内に吸収されていく。


 タミキと僕は光と影のように分かれた道を歩いている。彼を見ていると光を魅せる為に、どれほど努力をしたのだろうかと考えてみた。それは僕には見えない彼自身しか知らない秘密の蜜。表の顔を崩さないように演じているんだろうなと思うと、少し冷静になれた。


 配信を見ている時にそんなリアルの言葉を考えても仕方ないが、今の情けない自分と比べる材料を探してしまう。


 「別世界の人だな」


 近くにいるのに遠い。日常に揺られて、癒しを求めた人達がタミキへと辿り着いた。その笑顔の輝きに惹かれ、現実逃避をしている。


 客観的に見ているが、僕もその中の1人にしか過ぎない。


 「……かっこいいな」


 灰が落ちそうになっているのにお構い無し。光を掴もうと手を伸ばす。冷たいスマホの画面が遮りながら笑っている。


 羨ましいとも違う、嫉妬でもない。名前を知らないその感情は心の奥底に溜まっていった。


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