俺は今、断頭台の眼前で裁判という名の吊し上げに被疑者側で参加している。
なぜこうなった? 俺が聞きたい。
俺、何も悪い事してないもん。
裁判官が罪状を読み上げる。
「罪状、勇者オオモリは被害者マカオの胸を弄り、金品を奪って逃走した。さらに子供を数人殺害。被告人、間違ってる事はありますか?」
「全部間違ってる。冤罪にも程がある! まず、オカマの胸を弄ってないし、金奪ってないし、子供も殺してない!」
「静粛に。証言人、前へ」
証言人が前に出てくる。その姿形はファリアだった。
「あたしはそんな事する度胸の持ち主には見えなかったけどなぁ。勇者様がオカマに襲われたと言うならしっくりくるけど」
検察官が鬼の形相でファリアを見つめる。それを意に介して無いかのようにファリアはこう続けた。
「直接的な証拠とか無いんでしょ? ならやってないと思うよー」
ア、ファリアさーん! ありがとう。今この場で唯一の味方だよお前は!
「証言人ありがとうございます」
すると検察官が間髪入れずに捲し立て始めた。
「被告人の行為は極めて悪質な上、犯行を完全に否定しており反省の色が全くありません。よって死刑を求刑します」
「死刑!? うそだろ!?」
「静粛に。弁護人ご意見は?」
「ありません!」
「何しにきたんだお前は! 誰だよお前!」
そうだ、この数日見てた限りだと、この世界は中世ヨーロッパみたいな世界観。司法はマトモに機能していない。
王様は……ダメだ。表情からして俺がやったのだと決めつけている。
まさしく四面楚歌。いや、ファリアは信用出来る。
となれば、死なないためにやることは一つ。
「力を貸してくれファリア!」
仲間鼓舞を発動。逃げるしかない! 覚悟は決めた!
「アースストーム!」
まずは横に座っていた処刑人二人の目を風と土魔法の組み合わせで潰す。
「手錠かけられてなくて助かった」
次に俺は、ファリアに近づき『バフはもうかけてる。死なない程度に風魔法をここら一帯にぶちかませ』と言った。
ファリアは『もうなるようになれー!』と言い、風魔法の詠唱を始める。
すぐさま逃げ出す民衆。
詠唱を阻止しようと槍を突き立てる憲兵団。
ファリアの前方にいた奴らに『アースストーム』を乱発。そして、彼女の背中は俺の身体で物理的に守る。
そして、俺は『マジックカウンター!』と高らかに宣言した。
「その効果、食らったダメージをそのまま攻撃した相手に返す! さあ、殺してみろよ。もっとも、俺に致命傷を負わせたら、死ぬことになるけどなぁ!」
すると俺の左太ももに激痛が走る。と同時に俺の左太ももを貫いた兵士が左太ももを押さえながら苦しみ出した。
「……ッ!」
どんなに覚悟してても、気合を入れても痛いものは痛いと、思いつつ苦笑いを浮かべながら叫んだ。
「痛いなぁ。ヒール! 回復魔法も持ってるから致命傷以外じゃ死なないぜ。さあどうするよ!」
苦しむ仲間を見て、憲兵団は誰一人動くことが出来ない様子だ。
「怯むなー! 押さえつけるのだー!」
ちっ、王様にはバレていたか。無力化されたら、相手に返ってくるダメージも最小限な事に。
だがもう遅い。
「サイクロン!」
「捕まれファリア!」
上級魔法サイクロンが裁判所を包み込んでいく……
◇
「イタタタ……ファリアは!?」
気づけば辺境の地まで飛ばされていた。
「見つけた!」
クッ、マジックカウンターを解けてなかったせいか俺と同じダメージを負ってる。ヒールで治さなければ!
◇
「ここは……?」
数時間後、ファリアが目を覚ました。よかった、目を覚ましてくれた。
ひとまずすることは謝ること。
「……巻き込んでごめん。お前にはお前の人生が有っただろうに」
「そうだねぇ。まっ、あたしとしては王様に一発魔法打ち込めてスッキリしてるけどね」
「ああ、貧民層出身故にってことか」
さてと、これからどうするか。
先程、俺たちの似顔絵が描かれている指名手配の紙が各所配られていた。
指名手配、俺が捕まったら十中八九処刑だろうなぁ。死にたくないから逃げよう。
指名手配されてる現状、この国には居づらい。
「国外逃亡するしかないか」