自分の人生に予定を立てた覚えは無いのだけど、予定外だ、と思う事はたくさんあって、飽きない人生だなって思う。
予定は未定なのに、予定外はあるんだ。
部活だって、剣道でバリバリ活躍しようって意気込んでたのに、結局万年ベンチだった。
就職活動もさっさと終わらせてやるぞーって意気込んでたのに、内定先が決まらないままもう三月だ。
そんな時、オカマに出会ったのも、きっと予定外なのだろう。
「あらーいい男! あなたを勇者としてお迎えしにきたわー!」
全身ゴリラみたいなオカマだった。トサカ頭で、そんじゃそこらのプロボクサーにも負けないようなフィジカルの持ち主と見える。
「いっけなーい! 異世界行きのゲートが閉じるわ! 勇者様行きましょう!」
俺は有無を言う前にオカマに手引きされ、虹色に輝くゲートへダイブすることになった。
◇
「鳥羽族は今日も城下街の空を滑空し、水魔法で畑から野菜が咲き乱れ、魔王軍は隣国を滅亡に導いたこのご時世、よく来てくれたな勇者殿よ」
気づけば城内に居て、俺たちは王様の話を聞かされていた。状況がイマイチ飲み込めない。
今日も予定外だらけだ。
「前置きは省略して単刀直入、本題に入らせてもらおう。勇者殿に世界征服を企む魔王を倒してほしいのだ。仲間と金はこちらで用意しよう」
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、俺って本当に勇者なのですか? 俺はただのベンチウォーマーなんですけど?」
「勇者殿の能力は事前に紙に記してある。読んでみい」
俺は王様から手渡された資料を訝しみながら読んでみた。
◇ヒビキ•オオモリ18歳
筋力 そこそこ
知力 そこそこ
魔力 つよつよ
運力 つよすぎ
走力 そこそこ
スキル 仲間鼓舞•ヒール•マジックカウンター。
異世界語読める事にも驚いたが、このスキルはなんだ?
ていうかスキルってなんだ? ポケモンでいう特性みたいなものなのだろうか?
「ヒールやマジックカウンターも優秀だが特出すべきは仲間鼓舞だ。文字通り仲間の能力を数段上げる、仲間鼓舞のスキルを持ってる者は人類史で二人目なのだ」
「だからこの世界に連れてきたってわけよ。ねっ、勇者様!」
なるほど、つまり俺は選ばれた存在ってわけね。
「……死にたくないんで帰っていいっすか?」
一瞬、空気が冷たくなった。と思ったら急にオカマが俺の胸ぐらを掴み、至近距離で『勇者様の自覚を持ちやがれー!』と叫び散らかし始めた。
だって死にたくないんだもん。このご時世、異国の地で命懸けれるかよって思っちゃったんだもん。
鼓膜が破ける音と共に、俺は元の世界に帰りたいと心の底から願った。