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第6話 女子化『検査』終了

「わわわっ……!」

 女子化検査の終了後、ベッドから降りるときちょっとふらつく……。

「あ! 中島さん、大丈夫か? 今日の検査は予定通りここまでにして、男性に戻る検査は明日、行おう」と一条教授。


 いつの間にか中島くんから中島さんに呼び方が変わっている……ま、一応女性だからね。

「今日は寮へ戻ってゆっくり休んで、また明日十時ころラボに来て」

 一条教授も生体検査室という名称が嫌いらしく、ラボと呼んでいる。


「あ、はい教授……また明日よろしくお願いします」

「検査着はそのまま更衣室のカゴへ入れてくださいね」と看護師さんに促され、更衣室に入り検査着から私服に……。


 と、しまった! 女子化するのに、女物の服を荷物ごと寮に置いてきてしまってた!

 あ〜やっちゃった……。

 幸い? なことに生体検査室のある生物学部本館から寮まではものの数分……とはいえ、彼シャツ姿の十六、七歳、長い金髪、赤目の女の子が歩いてたら、いくらTS学園キャンパス内でも目立つだろうなぁ……まぁこの際しょうがない!


「な、中島さん! その格好で寮まで戻るんですか?」看護師さんが驚く。

「あ、あはは……着替え、寮に忘れてきちゃいまして。でもキャンパス内なんで大丈夫です……多分……」

「そ、そうですか? 気をつけてくださいね……」

「は、はい。失礼します……」


 スニーカーもでかいし、おまけにTシャツやズボンを持っているから歩きにくい……わたしってこんなに大きかった……いやいや今のわたしが小さすぎるんだ。

 身長は一割減、体重なんて二割減以下だからな……。

 ヒミツだが、男物のパンツも大きいから履いてないのでやたらスースーする。

 いつもの事だけど赤目になったせいで、もう夕方近いとはいえ風景が眩しい。


 寮の部屋に急いで入り、自分のだけど彼シャツから、持参した女物の服に着替える。

 もちろんパンツもブラも。そうでないと、小さいけど胸の形、わるくなっちゃうしね。

「はぁ……今日は疲れた……」やっぱり検査だと監視下だから、普通に女子化するのとはわけが違う。

 お風呂、入りたいな……寮だけど外来者用の部屋なのでユニットバスはある……でもそれじゃ疲れ取れないから、寮の浴場に行くかな……もちろん学生・生徒が使うから安心して入れる。

 バスタオル、タオルからシャンプー、リンスまで一応全部揃ってるし、私立だけあってそれなりに良い品質の物だ。

 浴場は男湯、TS湯の二つ……。男湯があるのは、お湯や水を浴びると女子化が解けてしまう子がいるからだ。

 わたしは当然TS湯に入る。


 夏休みだから生徒は一人もいないと思って、すっぽんぽんでタオルだけ下げて、まずはかけ湯がわりにシャワーを浴びて……長ったらしい髪を洗っていると……。

 一番奥の洗い場に体を洗っているいる子――当然TS娘だ――が一人いた。

 チラチラとこちらを見ている。

 視線が気になる……中学二年位か。

「……あまり見かけない方ですけど、編入生かそれとも最近女子った方ですか?」

 めちゃ興味津々な感じで聞いてくる。


「あ、うん、まぁ……」とごまかす。

「ここのお風呂、大きくていいですよね〜 わたしつい最近女子ったんですよ〜 で、しばらく様子見で学校にいなさいって先生に言われて……おんなじですね〜」

 あ〜なるほど、だからか。夏休みは普通、自宅に戻るんだよね。


「お姉さんは、高校生ですか?」わたしの背格好をみて推測する。

「まぁ、そんなとこ〜」

「じゃぁ、ほんとにお姉さんですね〜」と言いつつも、わたしの胸をちらっと見る……そこ、コンプレックスなんですけど〜

「……キレイな髪ですね……わ! 目の色、赤いんですね!」

「う、うん……そうだよ〜」

 これ以上詮索されたくないので、そそくさと身体を洗って湯船にも浸からず、早々に部屋に引き上げた。


「ふ〜 ゆっくり湯船に浸かるつもりだったのにな……」

 髪は部屋備え付けのドライヤーで乾かした。

 部屋着に着替えてベッドに仰向けになって、今日の事をいろいろ考える。

 気になるのは、去年検査したときは女子化完了まで五分かかってなかったような気がする……いつも自分では正確に時間なんて測ってないけど、最初の頃より時間が長くなってる気はしていた。

 しかも男に戻る時間も長くなっている気がしなくもない。


 ――疲れからか、そのまま寝てしまい、夕食は摂らず仕舞いだった。


 *


 検査を受けたからだろうか、久々に初女子化をしたころの夢を見た……。

 十数年前の三月、TS学園高校二年の職業実習で女子化した。

 その日のうちにTS学園の大学で検査を受け、TSトリガーは学園でも初めてのケース、ネイルを塗る事で、ネイル以外では女子化はしない。

 また、ネイルオフすれば男性に戻る事が判明し、出現率はかなり低いと推定されレアスキルと認定された。

 そしてTS証明書が発行された。


 翌日の昼休み……。

「おーい、中島ぁ〜今度はこれ試してみ? さっきはマジックだったから、プラモのラッカー」

 女子化済みで、今日は男子のままの赤城がにこにこしながらやってくる。


「なんでそんなもん持ってんの? あ〜それ? それダメだったよ。タムヤのアクリル塗料でしょ? プラモ作るの趣味だから自分ちで塗ったけど女子らなかった」

「な〜んだ、そっか」

「ぼく、エナメル塗料持ってきたよ〜!」赤城についてきた、今日は女子ってる加賀。

 この二人はいつもくっついている。

「なんでお前も……あ〜ごめん、アクリル、エナメル、ウレタンやポリビニル塗料もだめだったよ……」

「そっか〜」と残念そうな二人。


「ジェルネイルって、ハードタイプの主成分はアクリルで、ソフトタイプはウレタンやポリビニールが主成分なのになぁ……ソフトタイプでモノマーの状態じゃなくて、光重合でポリマーにしないとだめなんじゃない?」と、化学の成績が良い蒼龍がやってくる。

 蒼龍も女子化済みで、今日は女子っている。


「なにそれ詳しい!」赤城と加賀。

「いや、モノマー状態で塗っても、速攻女子ったんだから、違うと思う……」

「謎だな〜中島のはほんっとのレアスキルだね」と蒼龍。

「でも実用性ないしな〜誰かさんみたいに突然女子らないから、オレは女子用の制服は、いらないんだ〜」

「え、誰かってぼくのこと?」と加賀。


「なんだよ〜! おれ、知ってんだぜ、中島って金髪赤目で可愛いいんだぜ! もったいない!」赤城がドヤ顔で言う。

「え? そうなの! ぼくも見たい!見たい!」と加賀……。


「あ〜〜〜二人ともうっさい!」自分の声で目が覚めた……。

 あいつら、今何をしてるんだろうな……。


 *


『被験者』

 TSナンバー1489・中島忍・TS名中島しのぶ

『登録日』

 20XX年3月12日

『検査期間』

 20XX年8月15日〜16日

『TSトリガー』

 ・ジェルネイルを爪に塗布すると女子化する初めてのケース

 ・ジェルネイル以外での女子化は認められず

 ・ネイルをオフするまで女子化は継続

『特記事項』

 ・肉体年齢は実年齢ではなく、ほぼ覚醒時の年齢のままの17歳前後

 ・髪色:金

 ・虹彩の色:赤

 ・レアスキル保有者に認定

 ・20XX年8月16日現在、同じトリガーを持つ5名を確認

『チップ情報』8月16日に回収交換済

 平均女子化日数:4.5日/週

 平均男子化日数:2.5日/週

 約5日に1回女子化と男性化を行っている――継続検査開始時に指導したとおり

『スキャニング情報』

 女子化完了迄の時間

 覚醒時検査  20XX年3月12日 2分52秒(172秒)17歳

 継続検査初回 20XX年8月15日 3分06秒(186秒)20歳

               :

               :

 第12回検査  20XX年8月15日 5分12秒(312秒)32歳

 継続検査初回より12年間で126秒延伸


 男子化完了迄の時間

 覚醒時検査  20XX年3月12日 3分08秒(188秒)17歳

 継続検査初回 20XX年8月16日 4分22秒(262秒)20歳

               :

               :

 第12回検査  20XX年8月16日 9分4

2秒(582秒)32歳

 継続検査初回より12年間で320秒延伸

『所 見』

 女子化と男子化の時間差の原因は他の被験者と同様、主に外性器・内性器の形成および乳房の膨張・収縮、骨格の収縮と拡張による差と見られる。

 女子化完了迄および男子化完了迄の時間がこの12年間で増加しており、男子化の時間が女子化のそれと比較して、約2.5倍となっており、『XXXXXX』(Sechsx)の効果がみられる。

 加齢による代謝量の変化の可能性は否定できないが、いずれにせよ近い将来女子化後に男子化できなくなる可能性があると推測する。

 本事案は学部長に報告済み。


 中島くん、本人も薄々気がついてるんじゃないかな……どうするか。いくらレアスキル持ちのレアケースとはいえ、これ以上は……。


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