目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第4話 昔話?

「しのぶちゃん覚えてる? 初めて会って、あなたが女子化したときの事……」

 ん? カネコさんの事って、たしか言ってたけど、山下さん突然昔話をしだす。

 なんか普段と様子がちがう……けどしばらく様子を見てみようか。なにか悩んでるみたいだし……。


「ムツミさん、そりゃ〜はっきり覚えてますよ」

 山下さんとわたしはかれこれ十五年の付き合い……というか師弟? 師妹? 関係……で、普通に名前で呼ぶ。


「高校二年のときの職業体験で、グループ分けするときにハズレを引いて……ムツミさんのネイルサロンへ行ったんですよね」

「ハズレってなによ〜」


「あはは。で、そのとき女子ばっかりの中で、男子は一人だけで職業体験したんですよね……ムツミさんったらあんとき『あーら、これからは男性もネイルする時代が来るし、男性のネイリストもいるわよ? だから恥ずかしくなんてないわよ』なんて言ってたし」

「なつかしいわねぇ……あなた普通の女の子よりファイルとかニッパー(普通の爪切りよりニッパーを使用すると繊細なカットができる)の扱い、上手かったよね〜」


「そうそう、小学生のころからプラモ作るのが趣味だったから、ヤスリかけとかニッパーはよく使ってたんですよね……あと、塗装も上手かったんですよ」

「そう! 塗装! 初めてあなたがジェル(ジェルネイルの事・ゲル状の樹脂を紫外線等で硬化させる事で形成するネイル)塗ったときの事!」

「あ〜あんときはびっくりしたな〜! 急に骨盤とか、お腹から胸から身体中痛くなって、気が遠くなって……気がついたら女子化してましたし……」


「そうよね〜 わたしもびっくりしちゃったわよ! ネイル塗って女子化する子なんて見たことも聞いたこともないし……そもそもTS学園では初めてのケースじゃない?」

「ですよね……でも今いる店長たちも、全員ネイルで女子化する体質……」

「そこでお店をTS娘のネイルサロンにしようとわたしは思ったわけ。で、就活を始めていたしのぶちゃんを探して声かけたのね。探すの苦労したわ〜 OGのコネ使ったけどさ〜」


 ムツミさんもTS学園卒業生の先輩だけど、純粋な女性だ。

「最初聞いたときは、そんなの需要あるの〜? って思ったけど、ネイル業界で話題を呼んで、今繁盛してるのは確かですよね〜 んで、アルバイトでネイルの修行を受けさせられた……と」

「あん? 受けさせられた? しのぶちゃん、あんたイヤだったの〜?」

「いやいや、じょ、冗談ですってば〜」

 急に真顔になるムツミさん。


「そう、ネイルを塗る事がTSトリガー。出現率はかなり低く、またネイル以外では女子化しない。ネイルオフすれば男性に戻る……いわば謎の多いレアスキル。現在TS市で確認されているのがあなたたち五人よ」

「……」

 ねえこれって、カネコさんの話とどう繋がるの?


「しのぶちゃんもナオコ(カネコさん)がヘアサロン経営してるの知ってるでしょ?」

「ええ、超お得意様ですし……長年のお付き合いですしね」

 さっきのレアスキルの話とか、展開が見えないのでわたし、ちょっと警戒して答える。


「で、ナオコがさ、来店したお客様にヘアと同時にネイルのサービスまでしたらどうかな? って提案してきたのよ〜 そんときしのぶちゃんが直アポ取ったの聞いちゃったんだけどねぇ〜」

「へ? ヘアサロンでネイルサービス……。え、それって斬新で一石二鳥で濡れ手で粟で……えーっとえーっと……」


「あはは、しのぶちゃんなに慌ててんの〜 それで愛弟子のしのぶちゃんの意見を聞いてみようと思ったの。他の店長やスタッフにはまだ秘密ね」

「あ、はい。ヘアサロンでネイル、確かに良いアイデアですね。お客様もお時間さえあればヘアもネイルも同時に綺麗になるし、まさに『お客様を笑顔にしましょう!』に合ってますよね!」


「あ、やっぱりしのぶちゃんもそう思う? わかってるじゃない。で、ネイリストはナオコのお店でお客様に失礼がないような中堅クラスじゃないと務まらないから、まずはしのぶちゃんのお店の……えーっと安藤さん? が適任かなーっと」

「え、え、え、それはちょっとチーフがいなくなるとわたしが、わわわ……じゃなくて、お店が困るんですけど〜」


「ん? チーフいないとなんでしのぶちゃんが困るのかなぁ〜?」

「……そ、それはですね……え〜っと、白状しますけど、実は女子化したときのコーデとかメイクとかヘアとか、ぜ〜んぶチーフに任せてるんです。すみません……」

「あら〜しのぶちゃんもう女子化歴十数年なんだから、それくらい一人でできるようにならなきゃだめじゃないの〜」


「え〜 だってわたし女子化して自分でコーデすると、どうやってもJKにしか見えないから……これでも結構苦労してるんですよ。ムツミさんわかってくださいよ〜」

「そっかー、じゃぁこの案件の詳細は来月の店長会議にかけるとして……この話は進める方向でって、ナオコに返事していい?」


「はい! ネイルサロンTSと、カネコさんのお店とお客様のトリプルWINですね! 是非やりましょう!」

「決まりね! 早速ナオコに連絡するわ。じゃ、今日はここまでね」

「はい、お疲れさまです。それじゃムツミさん、お店にもどりま〜す」

「は〜い、しのぶちゃんお疲れ様〜」


 あー変なところで墓穴掘った〜……でも安心した〜


 ――でもレアスキルの話を持ち出すって……確かに学園卒業後も女子化能力保持者は年一回の検査が義務付けられているけど……ま、今日はいっか〜


 わたしってば、なんか警戒してたのが莫迦みたい……。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?