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第3話 店長会議と営業会議

 そうこうするうちに店長全員が揃ったので、店長会議が始まる。

店長会議は営業会議も兼ねているので、司会進行は社長の山下(山下ムツミ)さん。

 ネイルサロンTSは役職ではなく名字や源氏名で呼び合う社風だ。田中さんは純粋な男性なのでタナカさんのままだけど。

 親しい人とは名字ではなく下の名前を呼び合うけどね。

 営業会議はどの会社もそうだと思うけど、いかに売上を伸ばし、お客様の評価を高めるかを年度計画、BS、PLに基づいて今月の方針、店舗戦略等々計画を練る。

 加えて、店舗評価、ネイリストの人事評価、ネイル技術、デザインや情報の共有を行う。

 といっても堅苦しいものじゃなく、TS娘ばかりなので和気あいあいというか、結構……いや、かなり? キャッキャウフフで進めていくので、議事録担当のタナカさんは大変そうだ。


「ね、しのぶ。これからもず〜っと今日みたいなお・と・なコーデでサービス(オフからネイリングの施術の事)すればいいんじゃない?」とカズミさん。

「あ〜ん? 今日は店長会議で気合入れてるし! なんたって先月も売上トップなんだからねっ!」

「むぅ〜 先月は僅差で負けたけど今月はそうは行かないわよ!」

「へん、そんなの返り討ちにしちゃうからね〜」


 そうこうして、今月は年間イベントの一つであるバレンタインに向けてのデザイン強化を中心にする事を大筋に決め、会議終了。

 あとは各店長の采配でいかに展開させるかが腕の見せどころ。


「えーっとね、しのぶちゃん。先月カネコさんに直アポとったでしょ〜? わたし、知ってるんだから〜」と山下さん。

 カネコさんは、まだ山下さんが経営している店――現中央店――で、わたしと二人だけで切り盛りしていた頃からのお客様で、中央店の店長を山下さんから引き継いでも懇意にしてくださる超お得意様だ。

 山下さんの同窓生で、ヘアサロンを経営している。

「え、え〜っとですね、は、はい。直アポしました……」

「え〜なにそれ、ズルい!」とカズミさん。

「いえ、別に責めてる訳じゃないのよ? みんなもしのぶちゃんみたいにコネとTS娘使って欲しいなーって事を言いたかったのよね」

「あ、あははは。ありがとうございます……」

「え〜やっぱりズルい〜」とカズミさん。

「はーい」

「はいはーい」

「ですね〜」と各店長。

「じゃぁ、今日はこれくらいにして、今月もお客様を笑顔にしましょう!」と山下さんが締める。

「お疲れさまでした〜」一同それぞれ各店舗へ戻る……。


 すると……「あ、しのぶちゃん。ちょっといい?」と山下さんから呼び止められる。

「ここでいいかな? あ、タナカさんは事務室に戻って、今日の議事録配信お願いね」

「はい。あ、あとしのぶさん、先程は失礼致しました!」

「別にいいわよ〜 って、あなたまだ気にしてたの? よくJKに間違えられるから平気なのよね〜わたし」

「ふふふ」と山下さん。


 タナカさんが事務室に戻るのを見届けると、山下さんが真顔になって話を切り出す……。

「実はね……カネコさんの事なんだけど……」

「えっ! わたしなにか失礼な事を……?」

「あ、しのぶちゃんの事じゃなくて、カネコさん本人がらみなんだけど……」

 なんか不穏な感じがする……。

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