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ネイルサロンTSの日常
ネイルサロンTSの日常
中島しのぶ
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年01月23日
公開日
3万字
連載中
店長・中島忍が売上げを達成するため、ヘアーサロンの社長にネイル施術をするため女子化する。トリガーはTS市でも5人しか確認されていないジェルネイルを爪に塗ること。
女子化後、十数年経っても本人は正装と思っているJKスタイルになってしまうほどコーデが不得意なため、メイクとヘア、コーデは全てチーフ・安藤ラムに任せている。が、しのぶは入社したての男性社員から女子高生と間違えられるほどの背格好。
昨夏、中島は一条教授のラボで、TS娘の義務である証明書の更新と女子化と男子化検査を受ける。男に戻る時間が伸びている検査結果を見た一条教授、将来的に女子化固定すると推測する。中島も薄々そのことには気付いていた。
しばらく平穏な日常が続いていくかと思われたが、しのぶは男に戻れなくなる悪夢を見る。
それが気にかかり一条教授の元を訪れたしのぶは、十二年間受けてきた検査と称した実験の結果で女子固定化してしまうことを知る。
それをラムに話すと「TS娘でも女の子になっても店長のことはず〜っと……」と言われ中島も実はラムのことが好きだったことに気がつき、付き合い始める。
しのぶの服を買いに行く女の子同士デート、その後ちゃんと初デートを楽しんだ中島とラム。ラムの手料理を摂った夜、二人は五年分の思いと空白を埋めるようにお互いを求め合った。
中島には自分にはラムに子どもを授けてあげられるだろうかという心配事があった。その事を確認しに一条教授を訪れ、妊娠させる能力があることを知り安心する。
中島が男の身体でいられる今のメンバーでの花見を望むチーフの提案で休日に近郊でお花見をする。その席上でラムが中島と付き合っていることを公表するも、全員から祝福を受け愛を確かめ会う二人。付き合い始め約二ヶ月、妊娠5週めとわかり2人に幸せが訪れた。
が、入院の準備を始めた週末、ネイルオフするしのぶは男に戻れなくなってしまう――

第1話 プロローグ

 TS市のとあるネイルサロン。


 店長、店舗バックヤードの店長用PCで売上レポートをにらみつつ「今月の売上ノルマがあと少しで達成できるんだけどな……」大きくため息をつく。

「あ、それなら店長をご贔屓にしてるあの社長を呼べばいいじゃないですか?

 あの方なら、いっちばぁ〜ん高いデザインでハンドもフットも両方オーダー入れてくれますよ、きっと」と、チーフ。

「ん〜 そうだね。前回施術から……そろそろ三週間だから、連絡してみるか」


 該当者を検索してカルテを表示し、電話をかける。

「あ、もしもし? 社長? ご無沙汰してます。ネイル、その後いかかですか? 少し早いですけど春の新作も出てきましたのでいかがかな〜と思いまして……」

『あら、店長さん? お久しぶり。そうね、春の新作……まだ少し肌寒いけど、いいわね〜 明日午前中なら時間あるけど、席は空いてる? あ、フット席も空いてるの? じゃ、フットもお願いしちゃおうかしら』

「はい、十一時からでしたら、ハンドもフットも連続でご用意できますよ!」

『じゃ、明日十一時に席空けておいてね〜 新作で高いの、楽しみにしてるわよ』

「はい、喜んで。お待ちしております!」


「おーい、チーフ! 明日の十一時にハンドとフット両方、それも一番高いのオーダーしてくれたぞ〜!」

「店長、やりましたね! 明日は頑張らなくっちゃですね!」

「おーい、あんまり気合い入れないでくれよなー」

「だって、店長って……ねぇ」

「……」


 *


 翌日――

「店長、あと一時間でご指名頂いたお客様のご来店ですよ〜 早く用意してください!」

「う〜ん、わかってるけど、今日はどの服に……」

「なに言ってるんですか〜 店長ってば、歳の割に可愛い服似合うじゃないですか! おめかししなくっちゃですね! うふふ、どんな服がいいかな〜 わたしがいつものように選んであげますね〜」

「お〜い……」

「えー、だってわたしのおかげですよ〜予約取れたのは! だからわたしがコーデしますってば!」

「う〜そうだな……」


 ジェルネイルを取り出す――よし、やるか……まずは一番塗りやすい左親指から今日は春の新作の薄いピンクのミラーネイルを塗っていく。

 一本めから身体に変化が起こり始める――激痛、めまい……。うっ、骨盤が開く……股間も……痛っ……がまんがまん……。

 順に人差し指から小指までネイルを塗っていく……むぁっ、む、胸も痛い……。


 店長は女子化体質、つまりTS娘。そしてジェルネイルを爪に塗る事が女子化のトリガーだ。

「お……い、チーフ……右手塗ってくれ……」息も絶え絶え、ゲル状の樹脂を硬化させるためLEDライトに左手を入れながら、店舗で施術しているチーフを呼ぶ。

「はーい、店長。今いきまーす。ぴーちゃん、ちょっと代わってね」

「ではお客様、オフ(ネイルを落とす事)は、私が担当しますね〜」

「店長おまたせしました〜 あ〜ら、もう可愛くなっちゃって。今日のコーデは……ん〜定番の紺ブレに絶対領域にしますね!」

「ふぇぇ〜 いくら見た目がJKっぽくてもそれは……マンネリじゃ……」

「え〜 だって店長JKっぽいの好きじゃないですか」

「そ、それはそうだけど……」

「いいからいいから……そうだ、今日はちょっと高めのポニテにしましょうね」

 こうして完全無欠のポニテ絶対領域になった店長は、お客様を無事迎える準備が整った。


 カランカラン♪ ドアベルの音がする。

「あ、カネコ様いらっしゃいませ〜」

「あ〜ら店長、今日もJKなのね。かわぃぃわねぇ〜」

「は、はい。チーフにむりやり……」

「何言ってんの、あなたがJK好きなの、わたし知ってんだから」

「うっ……」ぐうの音も出ん。

「今日は新作のハンドとフット、店長がやってくれるんでしょ?」

「もちろんですよ〜 ほらハンドのサンプルはわたしのを見てくださいね。綺麗でしょ?」

「ちょっと若すぎない? ま、たまにはいいかしらね」

「そうですよ〜 社長、お綺麗だしお若いんですから〜」

「お上手ね〜 じゃ、同じのお願いしようかしら……」


 今月のノルマ達成も見えてきた。 

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