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第13話 神理魔導官~還魂の儀

 彼ら全員、各々に意識を集中する。還魂の呪文の詠唱が始まった。彼らの周囲の空間が歪み出した。不気味な振動音もそれに続く。


 あと少し、もう少しでも術が完成する。誰もがそう確信したその刹那、いきなり空間が裂けた。そこから現れた漆黒の剣が彼らの一人を切り裂いた。返す剣で隣の黒衣の首を刎ねる。


 裂け目から現れたのは漆黒の騎士である。しかし彼らは詠唱をやめない。姫と騎士を止める方法は今や還魂の術しかないからだ。


 一人、また一人と次々に彼らは倒されていった。そして姫が現れた。


「全員殺せ」


 冷酷な笑みを浮かべながら命令する。


 血飛沫が舞い、バラバラにされた肉片が飛び散る。もはや残っている者はわずかしかいない。


 詠唱が止んだ。と同時に黒騎士も静止した。最期の一人の喉元に剣の切っ先を突き立てようとする寸前で固まった。術が完成したのだ。


「ヘクトール! その女を殺せ!」

「う。お、俺は」

「その女は敵だ。トロイはその女に滅ぼされた」


 最後の神理魔道官が叫ぶ。目覚めたばかりだからだろう。ヘクトールは呆然としている。


「おまえの妻も子もみんなその女に殺された。トロイは滅んだ。おまえはそこにいた。すべてを見たはずだ。目を覚ませ!」

「うう。ああ」


 黒騎士の剣が揺れた。次の瞬間、その剣を姫の身体に突き刺した。そのまま背中へ抜ける。


 青ざめた美貌に驚愕の表情が浮かんだ。開いた口から真っ赤な血が溢れ出した。


「な、なぜです。愛しいあなた。どうして……」


 姫がくずおれた。黒騎士がその身体を抱き上げる。二人の姿がぐらっと揺れ、そして……消えた。


 それを見届けた神理魔導官はゆっくり目を閉じた。時が巻き戻るのを感じつつ、その流れに意識を委ねる。最後の力を振り絞り、姫を封じる呪文スペルを流れに乗せる。


 効力は長くはもたない。無事に時が戻ればそれでよい。


我らは守護者ガーディアン

たとえ皆殺しにされようとも

時の理により新たな我らが現れる

果てぬ戦いのその果てに

いつの日か、かの人を永遠に封じることだろう


いつか……姫を……神によって楽園から追放された哀れな女を……。



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