→古書によれば、時の
「時の狭間に設置したXXIII99999μ号探索触手(プローブ)から通信が入った。この意味は諸兄らに言うまでもないだろう。なお、プローブは通信後に即座に破壊された模様である。前回の___による歴史改変からおよそ七百年。次第に周期が早まっている。今回の改変は英国のキングアーサーおよびギリシャのアキレウス、トロイアを滅ぼしたのは___が変異させた馬だ」
ざわめきが起こり、すぐに鎮まる。仄暗い広い部屋だった。黒衣の人々が大きな丸いテーブルにずらっと並んで着席している。
彼ら神理魔導官は時の始まりより、この世界の理を監視してきた。彼らを創ったのは神か悪魔か、しかし彼らは自らについて何も語らない。
そんな彼らが危機感を募らせていた。"姫"の出現が時の理を脅かしているのだ。
「___はモルドレッド軍のみならず円卓の騎士をも壊滅させた。これによりイングランドのいくつもの貴族の家系が消滅。生まれるはずの王も消え、イングランドという概念も消えた」
「トロイアは滅ぶ運命だったが、勝者のはずのギリシャ軍が皆殺しにされた。ギリシャ全軍の弱体化は免れず、本土へ攻め込んだペルシャ軍に蹂躙された。ペルシャ一強になったせいで後のローマ帝国は生まれなかった。歴代の皇帝たちもな」
ざわめきが広がる。
「世界崩壊」「またも___を止められなかった」「どうする」「我らが」「時の理が」
彼らの一人が手を挙げ、発言する。
「ヘクトールの魂を戻すしかない。黒騎士と化した彼に___を殺させる。いつもの手段だ」
ざわめき。
「だがそれは最期の切り札。
再びざわめき。
「___の記憶の呪いが発動するまで待てばよい。創世の神の怒りに触れた罰ゆえの呪いはいずれ発動しよう。いつものようにな」
「それは駄目だ。今回はおそらく間に合うまい。船が現れたら世界が滅ぶぞ。時の理が破綻してしまう」
船、船とざわめきが広がる。彼らにとって"姫"は禁忌だった。それを口にすると最果ての城の主人に伝わるからだ。
「コンピューターの進化が生んだAIは兵器にも搭載された。兵器もどんどん進化し、より強力になった。だが___にとっては意味がない。AIなど容易く___に支配されてしまう。自軍の兵器によって殺されるのだ。旧式のただの機械兵器の方がまだマシだ」
「いずれにしても___には毛ほども役に立たんがな」
白熱した議論のすえ、ヘクトールを目覚めさせると方針が決定された。死んだ英雄の魂を戻すのだ。