時の狭間にて……。
音も色彩も無いその場所に設置された「それ」の触手めいたセンサーが、数世紀ぶりに信号を捉えた。
人の手により創造された「それ」は、自身のプログラムを参照し、己に課された唯一の使命を遂行すべく、スリープ状態にあった機能を静かに起動させる。
「それ」の使命は、その時が来たら創造主にスペルパワーで合図を送ること。
この空間では電波など意味がない。だから「それ」に封入されている思念により、時の狭間を渡る強力なスペルを生成し、受体として眠り続けている守人へ向けて送るのである。
生成されたスペルは“姫”。
ただその一言を送り出す為にフルパワーで活動を開始した「それ」は、空間を切り裂くようにいきなり出現した漆黒の物体による一撃で真っ二つになり、次の瞬間、粉々に霧散した。
だが「それ」は、消え去る直前に己の使命を果たしていたのだ。