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第6話 『純白の悪夢』

純白の婚礼衣装に身を包み

わたしはあなたを待っている

あなたが還るのを待っている


何年も

何世紀も

久遠くおんの時を此処ここ

この忘れられた城で

この最果ての場所で待っている


わたしのすべてはあなたのもの

あなたをかき抱いだくこの細い腕も

あなたに口づけるこの紅い唇も

あなたを虜にするこの熱い身体も

すべてはあなたのものなのに


あなたは何処にいるの?

わたしは此処にいるわ

あなたは何刻いつ還るの?

わたしは此刻にいるわ


待ち続けたわたしはすべてを忘れた

あなたの名前も

あなたの顔も

あなたの声も

自分の名前すら忘れ果てた


わたしに在るのはあなたに抱かれた記憶だけ


逞しい腕に組み敷かれ

熱く燃え上がる欲望に焼かれ

あかく爛れた身体を情熱の槍で貫かれた


でもあなたは還ってこない

わたしはもうこれ以上待てない

だからわたしはあなたに会いに行くことにした

この城を出てあなたの元へ迎えに行くことにした


たとえすべてを忘れようとも

あなたに会えばすべてわかる


たとえ数百万の敵が行く手を阻もうとも

漆黒の僕と共に紅い雨を降らし必ずや相まみえる


だから今は夢の中で……

あなたを想い、あなたに恋い焦がれ、あなたを抱く


あなたは夢の中で

わたしの腕に抱かれ、甘美な口づけに息を奪われ

覚めることのない淫靡な眠りに墜ちていく


あなたが何処にいても何刻にいても

わたしはあなたを見つけ出し

忘れられた城に連れ還る


あなたとわたしはトロリと溶けてひとつになり

紅く煮え滾る欲望の中で果てることのない愛を交わす


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