「お疲れさま、シュリア」
シュリアと共に部屋に入ると、赤毛の女が微笑みを浮かべて待っていた。
少し老けているし、ロングだった髪はショートになって服装の傾向は貴族が着るようなドレス姿へ変わっている。
だけど、それくらいで間違えるわけもない。
その女は間違いなくベルナだった。
「白龍の素材の搬送状況ですが八割方は完了してます。今日中には全て倉庫に運び込めるかと。それと素材の使用案に関しても専属の研究者に調べさせていくつか案が上がってきています」
「あぁ、その報告書には目を通してある。だがシュリア、お前ならあの素材をどんな風に使う?」
「私なら……ですか?」
「あぁ」
キツい視線でジッとシュリアを見つめるベルナ。
対してシュリアは必死に答えを出そうと考え込んでいる。
「白龍の素材の最大の特徴はその回復力ですが、誰の魔力でもその効力を発揮させることができるという『適合性』も大きな性質です。魔力注入時に複製される細胞はおそらく注入された魔力の性質に依存していると思われ、それはつまり誰にでも合う細胞を作れるということです。なので義手や義足、その他包帯などの医療品に幅広く使用できるのではないでしょうか」
めっちゃ真面目な話してる。
俺には製作系の技能は全くないし何を言ってるのかほぼ分からんが、そのアイデアの価値はベルナの反応を見れば分かる。
「良い発想だな。魔獣の素材は武器や防具に使われるものという固定観念に捉われず、その特性を最大限発揮できる場面での使用を検討しているのは素晴らしい」
「ありがとうございます!」
「その方向でも素材を精査しておくように研究チームに言っておいてくれ」
「分かりました。すぐにでもそうします」
「あぁ、それじゃあシュリア、私はこの
「あの……この人はベルナの知り合いなんですか?」
「さぁ、それは話してみないと分からないな」
そう言ってベルナはジッと俺を見つめる。
顎を上げて首元をさすりながらアピールして見せると、ベルナの口角が少し上がった。
「それじゃあシュリア、すぐに今の件に取り掛かってくれ」
「はい!」
俺を一瞥した後、シュリアは部屋から出て行った。
「まぁなんだ、一先ず掛けたらどうだ? ネル」
「じゃあ遠慮なく」
執務室のようなこの部屋の中央にあった四人掛けのソファの一つに腰掛ける。
するとベルナは俺の隣に座った。
「ネオンから話を聞いた時は耳を疑った。それに今は目を疑っている」
横目で俺を見るベルナの表情は、困惑と安堵が混ざったような複雑なものだった。
俺の転生術式は知る人間が多いほど脆弱になっていく術式だ。
仮にこの世界にネルという人物が誕生しなかった場合、術式が正常に発動するかどうか定かではないのだから。
それに死後発動する術式を無効化する術式の研究を始める人間もいるかもしれない。
だからこの秘密は誰にも言わないべきだ。
だけどリアには言っちまった。
そして――
「お前と同じだ。独自で開発した俺のオリジナル術式、【転生術式】って言うんだ」
「転生……死なないということか?」
「術式の発動を妨害されなければな」
だが、転生術式は脳に保存された記憶を司る術式であり、死後間もない相手からその術式行使の痕跡を発見するのは至難の業だ。
それを感知した上で都合よく俺の術式を妨害する術式を相手が使える可能性はかなり低い。
だから少なくとも、敵になりうる存在が俺の術式を知らない限り、実質的に俺は無敵だ。
「凄まじい術式だな……だが正直なところそんなことはどうでもいいんだ」
ベルナが俺の首へ手を回し、頭を抱き寄せる。
俺は特に抵抗もせず、されるがままに……
「本当に、生きていて良かった」
「……部下に愛人連れ込んでると勘違いされるぞ」
「構わないさ。だが随分と歳を食った見た目になったものだな」
「お前と同い年くらいの見た目だろ? まぁ通算だと五百年以上は生きてるけどな」
「五百……いやむしろあの練度の魔術を使える合点がいったよ。しかし、それにしてはビルドラムに居た頃は随分と子供らしかったじゃないか」
「肉体年齢に精神年齢が寄せられるんだよ。転生術式を使ってるとよくあることだ」
「そういうものか……」
「ていうか放せよ。もう俺はお前の奴隷でもねぇし、お前を母親なんて呼んだのも肉体に引っ張られただけの戯言だ。お前の子供は『シュリア』だけだろ?」
ベルナはこの街で自分の子供を見つけたってネオンが言ってた。
娘に自分が母親だと名乗ってないとも言っていた。
あの赤毛、それに所々に垣間見えるベルナと似た部分。
それに孤児を商会の幹部にするなんて普通じゃない。
あと、胸がベルナと同じくらいデカい。
「気が付いていたんだな」
俺の顔から手を放し、ベルナは冷静な表情で続ける。
「シュリアは間違いなく私の娘だ。ミカグラという性はあの子が住んでいた孤児院の習慣で無いものとして扱われていたようでな、本人も知らなくて助かったよ」
「なんで自分が母親だって名乗らないんだ?」
「決まっているだろ。私は街一つを火の海にした大罪人だ。そんな女の娘だと知っても良いことはないさ」
「……そうか、まぁ俺には関係ねぇ話か」
問題があるとすれば、お前がそんなに寂しそうな顔をしてるってことくらいだ。
「けど偽名とか使わなくてもいいのかよ?」
「ビルドラムとこのストゥーレは別国の都市だ。この国では私は指名手配されていないから必要ないよ。まぁ何れ見つかるだろうが、このまま一生逃げ隠れするよりはある程度の権威と財を手に入れて罪を流す方が手っ取り早い」
そりゃ随分と強引で厚顔無恥な免罪符だな。
けど、それでこそこいつらしいとも思う。
「さて、本題に入るか」
「本題?」
「あの白龍はお前が倒したとネオンから聞いている。お前には恩もあるし、うちは手数料以外は要らないから利益は全てお前に渡そう」
「要らねぇっての。俺はあの龍を殺したかったから殺しただけだ。金のためじゃねぇ」
「そうか? それなら広告くらいはしよう。噂話程度のことだがあの龍は今ネオンが倒したということになっている。このままいけばそれが事実になるだろう。だがうちの商会ならお前が倒したということを……」
「それも要らねぇよ。名誉なんか貰っても嬉しかねぇし」
「じゃあお前はなんのために白龍を倒したと言うんだ?」
「そりゃ……」
俺は力が欲しかった。
世界最強になりたかった。
俺に龍を倒せる力があるのか知りたかった。
…………それと、リンカを復活させるため。
「剣闘士だった時と同じ、俺の人生は修行だ。幾ら龍っつったって倒した今となっちゃもうどうでもいい存在なんだよ」
「求めるのは『力』だけか。変わらないな」
変わらない……
そのはずだったんだがな……
「それじゃあ何か必要なものがあった時はうちで用立てよう。勿論無料でな」
「そりゃ助かるよ。取り敢えず今から飯奢ってくんね? 今無一文なんだよ」
「ふふ、本当にあの頃と変わらないな」
「そりゃ俺はずっと俺だからな」
互いに笑い合って、俺とベルナはいつかリンカと一緒に来たレストランに向かった。
「ここ、別の奴と来たことあるよ」
「ほう、意外とお前もモテるんだな」
「全然意外じゃねぇだろ」
「なるほど、どうやら同席者は女性で確定らしい」
「なんだその誘導尋問、意味あるか?」
「気にするな、ただ私が気になっただけだ」
そうですかい。
よく分からん女だ。
食事中、そんな話をしていると身なりのいい客の男が一人ベルナに話しかけてきた。
「これはベルナ殿、最近は随分と盛況なご様子でいらっしゃいますね」
「これはガレス殿。そうですね、この幸運に甘えぬように精進していく所存です」
ガレスというらしい小太りの男は無精髭を撫でながら、値踏みするような視線をベルナへ向けている。
この肉ちょっと味付け変えた?
美味いからいっか。
「そうですか、確かにそれが良いかもしれませんな。幸運の先には得てして不運が降りかかるものですから……お気を付けて」
飯なんて久々だから顎を使う感覚が懐かしい。
そうそう味覚ってこんなんだったよな。
「先達のお言葉ですからしっかりと心に刻んでおくとしましょう」
「それではベルナ殿、引き続きお食事をお楽しみください。しかし立場ある人間は交友関係を選ぶべきだと思いますよ?」
そういや気にして無かったが俺の恰好は貧相でこんな場所には似つかわしくない。
それでも店員に何も言われないのはベルナが一緒だからだろう。
「ガレス――」
無表情を貫いていたベルナの表情が鬼のように険しく変化する。
「――次、この男のことを侮辱したら、私はそれを宣戦布告と捉える」
立ち上がるベルナの手首を、俺は机の下でさりげなく掴む。
「気にすんな」
小声でそう言うと、ベルナは俺の名前を呟いた。
「ネル……」
こっちに刺々しい視線を向けてる奴等が居る。
多分こいつの用心棒かなんかだろう。
今、魔力を失った俺がそいつら全員を返り討ちにするのは難しいかもしれない。
相手の実力によってはベルナを守れるか微妙だ。
「失礼した。ガレス殿」
魔力を眼力に込めてガレスを睨む。
魔力を持つ以上、魔力を全く感じることができない人間というのは存在しない。
こうやって攻撃性のものをぶつければ、魔術師でも戦士でもなく、耐性を持たない一般人は発汗と動悸に襲われる。
「……い、いえいえ。もしかするとこれからはベルナ夫人とお呼びするべきかな。あはは、お二人の邪魔をするわけにはいかない。私はこの辺で退散させていただきますよ」
そそくさとガレスは店を出て行く。
それを追うように殺気立っていた連中も外へ出て行った。
「本物の娘が見つかったんだ。俺みたいな代わりはもう必要ないはずだろ? 大切に想う必要も、庇う必要もないぞ」
「ふざけるな。私はお前をシュリアの代わりだなんて思ったことはない。それに今のお前がそんな子供ぶったことを言っても可愛げは欠片もないぞ」
「子供ぶってねぇよ」
「それにしても夫人か、今のお前と私がこんなところで一緒に食事をしているとそういう風に見えるようだな」
まぁどう見たって俺はお前の仕事の関係者じゃなさそうだしな。
「いっそ結婚してみるか?」
「お前みたいな小娘御免だね」
「婚期を逃しまくっているのはお前も同じだろう」
「結婚願望なんかどの人生でも持ったことねぇよ」
そもそも俺にとっては『生涯を共に生きる』という感覚の意味が他の奴と違い過ぎる。
それは二度目の人生の時に何人かの女と関係を持って理解したんだ。
「まぁ……お前を嫁にする人生はきっと幸せなんだろうとは思うけどな」
「………………」
冗談めかしていたベルナが、言葉に詰まったように顔を固めていた。
「ま、この話はやめとくか。それよりさっきのおっさんは誰だよ?」
「……そうだな。さっきの男はガレス・ヘラゼイド。この街で一番大きな商会、『ベレアス商会』の支配人だよ」
「へぇ、お前のライバルみたいなもんか」
「ライバルか……確かにそれも間違ってはいないが、その単語のチョイスは少し過激さに欠けるな。お前なら気が付いているんだろうが、あいつが雇っている人間は暴力を生業にする輩も多い」
山賊といいマフィアといい……
「お前はそういうのに関わることが多いな」
「富と戦いは切っても切れない関係だから仕方のないことだ。私が調べた限り非合法かつ非人道的なこともかなりやっているらしい」
「そんなことこんな場所で喋ってていいのかよ?」
「公然の秘密だよ。知らない人間の方がこの街には少ない」
「そうか。ご馳走様、美味かったよ。なんかあったらちゃんと言えよ、飯の恩は返す」
「恩返しを更に返されても困る……いや、人と人の繋がりというのはこういうものなのかもしれないな」
哲学的なことを言い出したベルナが会計を済ませ、俺たちはレストランの外へ出る。
その後ベルナが取り扱っている服をリンカの分も含めて数着と、直剣と短剣を一本ずつ見繕って貰いその日は解散した。
◆
「お帰りなさい。ネル」
「あぁ」
白い部屋に戻るとビステリアに迎え入れられた。
ビステリアは鉄の触腕を伸ばして幾つかの結晶をいじっている。
あの白龍が飲み込んでいたリンカ以外の冒険者のものだろう。
解体はミカグラ商会がやっているから、多分ネオンが運んでるんだろう。
「ネル様、事情は理解しました。何十年も経ってるんですね」
「悪かったな、すぐに助けてやれなくて」
こいつにも知人友人はいたはずだ。
だけど、そいつらのほとんどはもう死んでる。
それだけの時間をリンカは結晶の中で過ごしていた。
自分の知っている人間が誰もいない世界。
そこで復活することをこいつはどう思うのだろうか。
「いいえ、ネル様がここに居るのなら何も問題はないんです」
「……外での手続きとかはベルナに頼んでみるよ」
「ありがとうございます。でも私が今一番驚いているのはネル様が使用している『転生』の魔術のことですよ。ネル様は不死なんですね」
「そうだ」
ビステリアはしっかりと俺のことを全てリンカに説明したらしい。
いや、どうせリンカには言うつもりだったんだから構わない。
自分で自分の首を絞めている感覚はあるが、リンカのことは信用している。
俺に確認を終えたリンカは、正面から俺と向かい合う。
「ネル様、修行付けてくれるんですよね? 今から少しいいですか?」
「いいぞ、付いてこい。丁度武器は貰ってきたんだ」
どういう思案があったのかは知らない。
だが、リンカの覚悟の決まった目を見て、断るという選択肢はなかった。
俺が生まれた場所。
スケルトンが湧く地下空洞。
ここはまだ冒険者に発見されていないエリアだから修行には丁度いい。
スケルトンが襲ってきても、俺とリンカなら問題は何もない。
「ネル様、どうしてそんなに弱くなっているんですか?」
数分の手合わせを終え、リンカは俺に問いかける。
魔力量の激減。
それに伴う身体強化係数の低下。
使用可能な術式とその規模の減少。
魔力逆流の後遺症は、やはり俺を相当に弱くしていた。
「そうだな、俺は弱くなった。だけどそれはお前に心配されることじゃねぇな。弱くなったとはいえ、今の俺でもお前よりは強いんだから」
小規模の魔術しか使えないから敵を倒せない、なんて道理があるものか。
「お前は俺が、強い技を使えるから強いとでも思っているのか?」
魔術も剣術も、そんなに単純なものじゃない。
そこには明確な技量が存在し、その差は多少の不利では覆らない。
「確かに……失礼しました。その通りですね。でも私も一つ、ネル様に言っておかなければならないことがあります。昔の私と同じだと思わないでください」
リンカが武器を捨てた。
それは地面に刺さり、リンカは拳を構える。
更にリンカの姿が変貌していく。
それはリンカの種族、獣人の中でも長く戦いに身を置いた者にのみ発現する種族固有の特殊な術式。
「――
この力は俺も知っている。
獣人とやるときはこの力を前提に考える必要があるからだ。
人の獣の間にある己が存在を獣に寄せ、獣性を解き放つことでその身体能力激増させる。
物によっては飛行能力や超音波などの特殊な力に目覚める奴もいる。
かなり厄介な力だ。
髪が黒く変色し、目つきが獰猛に変化していく。
体毛が増して、筋肉が増強されていく。
いつか見たヨスナの龍化と同じような変化量だ。
覚醒させた性質は……狼か?
「いきます」
「かかって来いよ」
強化された基礎能力。
加えて『身体強化【爆】』による超加速。
移動速度が人間の動体視力を越えている。
一瞬で視界外に消えて行くような高速機動で、リンカは俺の周囲を縦横無尽に駆け回る。
目じゃ追えない。
ならば、最早視覚は必要ない。
スケルトンになったことで魔力感知の精度はかなり向上した。
それは新たな感覚器官と呼ぶに相応しい次元にある。
目で追えないなら魔力を読み、その動きの先を捉えればいい。
「終わりだ」
「なんで?」
俺の直前で爪を振り上げたリンカの首元に、俺は切っ先を宛がっている。
突撃に合わせて刃を宛がうだけで、単純な高速移動は意味を無くす。
「獣性を覚醒させたことで動きが単調になっている。パターンを把握すればお前の突撃に刃を合わせることも簡単だ。今日はここまでにしとくか、疲れた」
「あの、明日も……」
「明日は朝から見てやる。お前のその力、使い熟せないならないのと同じだからちゃんと物にしろ」
「はい!」
リンカと修行をしながら、たまに街に出てベルナやシュリア、ネオンの様子を見る。
そんな時間が数カ月続いた。
ダンジョンの環境に関しても白龍が討伐され、魔力源となる冒険者が沢山やってくるようになったことで改善され――
「ネル、白龍の打倒感謝する」
「ネル、言い忘れていましたがエルドを含めた五体の上位種はダンジョンが消滅しない限り何度でも蘇ります。今までは記憶を引き継ぐことに意味はないと思っていましたが、貴方を見て私も考えが変わりました」
生き返るなら生き返るって言って死ねよ。
俺が言えたことじゃねぇけど……
つうかビステリアも、こんなことができるなら最初から言っとけっての。
「ありがとよ、ビステリア」
「感謝は必要ありません。これは私が私の利益のために行った行動ですから。記憶を引き継ぐことによる恒久的な技量の向上。それはこのダンジョンを強くする要素になると考えています」
記憶を継承しての復活……
俺の転生術式と似た術式をビステリアは使えるらしい。
「しかしあまり多くの魔獣にこの処置を施すことは難しく、今は上位種五体に限っての運用で様子を見ていこうと考えています」
「まぁ、それがいいんじゃねぇか?」
脳を操る術式は複雑だ。
俺も完全に理解しきれているわけじゃないし、どんな症状があるか分かったものじゃない。
「はい」
「ネルよ……」
エルドが眼球のない目を俺に向けて何か言いたそうにしていた。
「どうした? 何か不備でもあるのか?」
「いいや、一つ頼みがある」
「なんだよエルド」
「私はこのダンジョンを離れることができない」
「そりゃそうだな」
「だが私は、其方をもっと見たいを思ってしまった。不死であるというのなら私を其方の僕として欲しい」
「どういう意味だ?」
「【
【
いや、多分できる……
実在する物質の召喚に必要なのは、その召喚物の情報と許可だ。
無機物であれば許可は不要だが、生物の場合はその同意が必要となる。
しかし【
つまり許可は出させれば問題はない。
そして【
「確かに、召喚術式自体の構築には少し時間がかかりそうだが、できないことはなさそうだな」
「では私もその術式構築に助力しましょう」
「意外だな。お前のダンジョンの魔獣を俺のモノにするって話なのに協力してくれるのか?」
「はい。貴方の元でエルドが経験を積むことは、私にとってもプラスですから。それと、
強さとは個人の力に収まる範囲の概念じゃない。
誰かを使う、誰かに頼る、適材適所や手札の増強。
配下を持つということも強さに含まれる。
未だ完全に納得しているわけじゃない。
だけど、白龍を撃破できたのはこいつらやネオンの力が必要不可欠だったことは事実だ。
「分かった。全員受け入れてやる」
「ではそのように。ネル、改めて白龍アザブランシュの討伐、ご苦労様でした」
「俺は俺のためにやっただけだ。気にすんな」
そう言った時、白い部屋の唯一の扉が勢いよく開かれた。
一人で修行をしていたリンカが帰ってきたのかと思ったが……
「ネル、大変だよ!」
どうやら違うらしい。
そこに居たのはネオンだった。
「ベルナさんが攫われた!」
「は?」