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第22話 Key-piece

蒼井さんへ (20XX年1月16日)

Mail from:田中宏樹

Title:Re見つからない家の場所について


あけましておめでとうございます。

お変わりありませんか。


私は昨年の秋頃から在宅勤務になり、社へ出勤するのは週に一回だけ。

ですからほぼ自宅で過ごす毎日を送っております。


蒼井さんのホームページは更新されたらすぐにチェックできるようににブックマークに登録済みです。

精力的に活動されているようですね。

本業のお仕事との両立はさぞかし大変でしょう。


メールを拝見いたしました。

あの家の場所をお知りになりたいとのことなので、地図を添付いたしました。

ご自分で探すおつもりなのかな。


私からお話差し上げたとおり、たとえ奇怪な現象にお詳しい蒼井さんであってもあの家は見つからないと思います。


見つからない方がいい。


あれから色々考えました。

見つからないのは見つけてはいけないということなのではないか。

私があの家を訪れたのは何かの間違いであって、本来であれば禁じられた場所として誰からも見えないようになっているのではないか。


蒼井さんにお会いしてから興味が湧くようになり、自分でも色々調べたり勉強しました。


禁忌。

忌み地。

入ってはいけない場所。

日本にはそういう場所が少なからずある。


あの場所もそうなのではないか。

あの場所がもしも忌み地だとしたら、あの不気味な庭も、草木一本育たないわけも納得できます。


そんな場所に間違って迷い込んでしまった私は急に具合が悪くなった。

しかし禁じられた場所であったなら、具合が悪くなるだけで済んだのは運が良かったのでしょう。


あなたにあの場所へ行って欲しくない。

行ってはいけない。

しかし止めても無駄なのでしょうね。


いくら危険だと理解していても、そこに怪異が待ってるのなら、あなたは行く。

あなたの書くものに接した今となっては、あなたはそういう人であると理解しました。


行くのなら、くれぐれもお気をつけて。

行くのなら、是非とも助っ人と連れて行くように。一人で行ってはいけません。


追伸


私の家内と蒼井さんがまさかお知り合いだったなんて驚きです。

年齢も離れているし、世の中狭いものですね。

家内の麗子に蒼井さんの話をしたら、近いうちに会えると伝えて欲しいとのことです。


忘れるところでした。

家内の旧姓は大西です。


それでは、くどいようですがくれぐれもお気をつけて。



 夕方まで泥のように眠った。突き飛ばされたり邪悪な穴に引き摺り込まれたりで睡眠不足の極度だったから、ずきずき痛む膝よりも眠気が勝ったのは当然だろう。


 眠っている最中にピートの鳴き声が聞こえたような気がした。半分眠っている頭の中で、ごめんねと謝り、再び眠りの海へと沈んでいく。


 窓の外が暮れて空が暗くなる頃、怠惰な眠りよりやっと覚醒し、眠い目でメールをチェックしたところ、田中さんから返信が来ていた。そして追伸から先を読んだわたしは、驚愕し、呆然となり、唖然としてベッドから跳ね起きた。


 のんびり寝ている場合ではない。今すぐにでも平川さんへ伝えなくてはならない。


 "見つからない家"の体験者である田中さんの奥さまの名は麗子。そして旧姓は大西。大西麗子。それはあの"ぶつかる女"の名前だった。


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