「ううさぶい。今日はざぶいなぁ…」
「そんなに寒いかなぁ?最近はずっとこんなかんじの気温が続いてるからあんまわかんないやー。シュウトクさんは普段外出ないの?」
歩いて少し時間が経ち、
「私か、そうだなぁ…あんまり外に出ることがないんだ」
「最近は仕事の都合で建物の中にいることが多くてな、それこそ商人の家だと―」
お喋りに花を咲かせている2人を他所に、
(どうしてこうなった…)
*
「私もお供しよう。な?いいよな?」
この一言を聞き、誰にもでもわかるような負の雰囲気を凛樹は出していた。誰が好き好んでお偉いさんと捜索に行かなければならないのか。少しは空気を読んでほしいとすら凛樹は思っていた。
「いえいえ、シュウトク様は是非この家に居ていただいて、そうだ他の娘に頼んでこの家の歴史でも見てみてはいかがでしょうか?退屈はしないはずです。」
(頼むッ!本当についてくるな)
できる限りのにこやかな顔で、油の刺さってない
そんな彼女とは裏腹にシュウトクは我を強く出す。
「いやいや、もしかしたら私の力が使えるかもしれないだろう!ついていくぞ!!!」
それはもうとてつもない笑顔を使い、声高らかに宣言をした。
「そうだよ凛凛!シュウトクさんについてきてもらおうよ!人は多い方がいいよ、お願い」
小竹もそんなシュウトクをお人よしにも見込んでいるのか、捜索隊に入れるべきだと凛樹に懇願する。
小竹がそういうのなら仕方ない。こんな顔をされたら誰が無下にできるというのか。
小竹にだけ優しい凛樹は根負けし、渋々了承する。
「じゃあ…少しだけですよ…」
高官をあまり信用していなかった凛樹は邪魔だけはされたくないという気持ちが滲み出ていた。
この時のシュウトクの顔は何とも表現しがたい、勝ち誇ったような笑みと街に繰り出せる興奮が混ざり合った顔であった。
*
凛樹は体に辛うじて出さないものの、心の中は大荒れだった。いつもの澄まし顔が歪んでも可笑しくない状況に置かれてしまった自分の運を呪いたい様子にも見える。ただでさえ知り合いが居なくなって悲しみに暮れている小竹に気を使わなければならないのに、それに合わせて高官がいる。もともと人に気を使うのが苦手な凛樹にとっては最悪すぎる状況である。
だが会話力が凛樹とは段違いの小竹に、その不安は関係無いようだった。
「――。シュウトクさんの名前ってどういう漢字なの?」
落ち込んでいるはずだが自ら話題を作る小竹。
「私の名前の漢字はな、修理の修に人徳の徳なんだ。わかるかい?」
(結構立派な名前なんだな)
凛樹は
「?」
小竹はポカンとした顔で聞いていた。
(そうだった、小竹は話し言葉は及第点だがいかんせん書き言葉ができない。説明されても漢字なんてわからないんだった。)
と小竹の残念なところを凛樹は思い出す。
「し、しゅうり?じんとく?なにそれ」
間抜けな顔をする小竹。凛樹はそんな愛らしい小竹を今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。
「あぁそうか、漢字はまだわからないか」
そうだそうだ、ウチの子をイジメるのはもうやめろ。と内心で強く呟いた。
下手をしたら首が飛ぶ重圧に耐えられるかを不安に思いつつも、本筋とは外れた会話を楽しんでいた二人を他所眼に
まずは二人を現実に引き戻しす。二手に分かれ、町の人に手あたり次第聞き込みをすると伝えると小竹はすぐさまひとりでに行動を始めた。修徳はまだ土地勘がないため、凛樹と行動を共にすることとなった。
「知らないなあ」
「よく唐家に行ってる女の子だということは知ってるんだけど、私はわからないわ」
凛樹はこのあたりの顔馴染みに情報聞いてみたが、これと言って失踪に繋がりそうな情報はなかった。時間がどんどん経つこの状況に少しずつ焦り始める。
「あの、すみません。唐家に通っているうちの下女が昨日から行方が分からなくなっているんですが、何かご存じだったりしませんか?」
「どんな些細な事でもいいんだ。何か知らないか?」
玉砕覚悟で話しかけてかれこれ数十人目、もしかしたら本当に消えてしまったのかもしれないと思う程情報がなかった矢先のことであった。
「ああ、あの子だろう。少し青い髪の?」
「ええ、青い髪で普段包みを持っている下女です。知っているんですか?」
「ああ、その子は良く挨拶をしてくれるんだよ。ほら。あそこの路地に入っていくところをちょうど昨日見たんだ」
裏路地…?
男が指した方向を見ると、見覚えのある路地がそこにあった。
「とても…嫌な予感がする」
その路地は、凛樹が男に絡まれたあの裏路地に続く道だった。
「あそこはよく野良猫がいるんだよなあ。女の子は好きだろう?猫」
「猫」
そうだ、確かに
「貴重な情報をありがとうございます。それでは」
凛樹と修徳は男に深々と礼をする。
「何か手がかりになるといいんだがな。頑張って」
すぐに小竹と共有するべき情報だ。
*
「おーい小竹」
離れたところで聞き込みをしていた小竹を呼び止め、有力な情報があったことを伝える。
「猫…かぁ…」
「その口ぶち…もしかして小葵って猫が好きなのか?」
「そう、小葵はちょーが付くほどの猫好きだよ」
もしかしたら、と凛樹は想像できた事を話し始める。
裏路地にはあまり人が立ち寄らないために野良の動物が住み着くことがある。特にあの地域は野良の猫が集まりやすい。凛樹は海を見渡せる崖に行く際に何度も猫を見ていたために自信があった。もしかしたら
「調べるか?あそこを」
不穏な空気を読んだのか、自ら路地を調べるかと聞く修徳。
「…危なくない程度に」
修徳の目は少年のようにキラリと輝いた。