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四、女中と犬系男子


 「シャオクイ…?」

 (そんな奴いたか?)


 「髪が少し青いあの子だよ!最近私と一緒にお使いに行った子!」


 (そーいえばそんな娘もいた気がする。確か、口数が少なかったはず。真面目に任された仕事はやり遂げる子だったな)と凛樹は思い出す


 「あの子か、あんなに真面目な子が何もなしに脱走するとも考えられないな」

 「そーだよ!お使いに昨日の朝行ったばっかりだったんだよ!?それなのに今日になるまで一度も顔を出さないなんて絶対に変だよ。もし小葵シャオクイに何かあったら私…私…!」

 「待て待て落ち着け、ほらこれでも飲んで」


 寝かしつけるように背中を叩きながら凛樹リンキは飲みかけの湯飲みを渡してあげる。忽然こつぜんと友達がいなくなってしまった不安に押しつぶされてしまいそうなのだと凛樹は察した。


 「あ、ありがとう…」


 グスッと鼻をすすりながらちびちびとお茶を飲み始めた。小竹シャオズにとっては苦かったのか少し顔にしわを作っていた。とりあえずは落ち着いてもらおう。


 (だが確かに妙だ。あのドがつくほど真面目な小葵が何もなしに逃げ出すとは考えられない。この商家は人使いは荒いがそれなりに待遇はいい。身売り...?いやでもそんなにお金を必死に集めている感じでもなかった。一体なぜ…?)


 この都ではお金を手に入れるために四種類の方法がある。


1. 真面目に働く

 一番健全で真面目であり、官僚・商家・農業など、大小様々であるが働いた分お金をもらうというシステムである。この中では官僚が一番稼げる見込みがあるだろう。だが科挙という男が受けられる三日間にも及ぶまるで拷問のようなとんでもない狂ったペーパーテストを受け合格しなければいけない。実際に受けた人の話を聞いただけでもおかしくなりそうな内容だった。なんなら童試という科挙を受ける前に受けるテストもあるそうで阿鼻叫喚である。よかった。お金もらえる仕事があって。私は死んでも科挙だけは受けたくない。まあ女性の手前受けられないのだが。


2. 一芸に賭ける

 舞踊や演奏ができるならそれは天性の才で家柄が良いのだろう。もしくは運が良いのか。

遊女として稼ぐことも夢じゃない。だがもちろん過酷な練習がつきものではあるが、小さいころの夢になるような職種である。特に女子であれば華やかな世界に身を置いてみたいと思うのは自然な事だ。私は正直本の読み聞かせ程度ならできる。稼げるかは別として。


3. 自ら身を売る

 一番手っ取り早い金稼ぎの手段である。単純な労働力として自分の身を売り、文句を言わず働かせられることが多い。稀にうちのようなお人よしな店もあるが、すべての店がそういうわけではない所が怖い。物覚えが良かったり、字が読めたりすると身を売っても危ない仕事に就くことはないだろう。小竹がわかりやすい例である。金の前払いしてくれる店が多く、家族のためにこれをする者も多いのだとか。私にとっては家族なんていないも同然なので関係ない。


4. それ以外

 簡単な話、裏の仕事をすればお金は稼げる。法律の裏をかくようなことをすれば良い。例えば とか


 (まさかな、まさかそんなわけない)

 凛樹はふとよぎってしまった良くない予想をブンブンと頭を振り飛ばす。

 何か別の予想をしようと手がかりを望んだ凛樹は下を向いていた顔を動かしあたりを見渡す。目を腫らしている小竹、そしてもう一人


 ジーーーー

 どこからか持ってきた座布団の上にあぐらをかくシュウトクからの熱い視線がこちらへ刺さる。


(犬かお前は。)


何やら不満そうな顔の高官がそこにはおらっしゃった。

 ジト目で睨み返しかけた自分を必死に止め、男を放っておき構わず思考を続けようとする。


 ・ ・ ・


 うーーーむわからん。


 あまりにも出ている情報が少なすぎる。この七巧図タングラムと同じくなかなかに難しいらしい。ピースがあまりにも足りない。


 「何か小葵について情報はなかったの?どこにお使いに行ったとかどんなものを持っていたとか」


 何かめぼしいピースはないかと凛樹は小竹に聞いてみる。


 「最近は......最近はにお使いへ行くことが多かった気がする。書類とか物をよく任されてた」


 小竹は先程よりかは幾分かマシだが、まだ鼻を鳴らしているた。


 にしても、とう家、か。

 凛樹は嫌なタイプの悪寒を感じた。本音を言うと唐家はあまり良い印象がない。私たちさん家が明るく穏やかな家だとしたら、唐家は間反対の暗く荒い家である。すべての人、物、仕事に対してキツく当たり、そのせいで毎年何人もあの家を辞めているとも聞く。家の中で派閥争いが絶えず、男尊女卑の古い考え方もあるようで、とにかく行き急ぐ男子しかいないようである。以前仕事で唐家に行った際にも無言の圧をかけられたことがある。人を見下さなければ生きていけないのか。

 最早である。そんな職場で働くと考えただけで気持ちが悪い。仕方ないとしてもせめて本くらいは読ませてほしいものだ。

 またもや違うことを考えてしまった凛樹はぽりぽりと頭を掻き、少し間が相手からから決断をした。


 「じゃあ小葵の後を追いかけるか」

 「うん!!絶対に見つけよっ!!!」


 この高官には申し訳ないが、今日は帰ってもらおう。流石に私達のことに付き合わせるのは忍びない。というか帰ってほしい。

 ただ、凛樹の狙いはここでも外れる。


 「私もお供しよう。な?いいよな?」




 …犬はステイッ!


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